東京電力ホールディングス(HD)が5月初旬に打ち出した新たな経営事業計画「新々総合特別事業計画」では、原子力発電事業の再編がひとつの鍵となっているが、他電力は及び腰だ。2011年の東日本大震災以降、負のイメージしかない東電と事業統合したところでなんのメリットもないからだ。多くの電力会社にとっては関わりたくないというのが本音だが、もはや国策となっている東電再編だけに「“ババ”を誰がひくのか」と電力村は戦々恐々としている。
5月19日、都内で開かれた北陸電力の記者会見。金井豊社長は東電との事業統合について、「原発の立地する地域に『地域よりも経営を優先するのでは』と不安を生じさせ、地域の理解を得られなくなるのではないか」と語った。
出席した経済担当記者は語る。
「原発は地元住民の理解が重要というのは、電力各社の常套句。ただ、今回の会見では、他電力と統合するのが理解を得られないのか、それとも震災以降のイメージが悪い東電と統合するのが理解を得られないのかと問われ、言葉に詰まる場面があった。明らかにイメージが悪い東電とはくっつけないという表情でしたね。実際、あれほどの事故を起こしながら、その総括も済んでいない東電とくっつくとなれば、反発は必至です」
同日に会見した電気事業連合会の勝野哲会長(中部電力社長)も、東電との再編は「お互いにメリットがないと成立しない」とばっさり切り捨てた。
各社が懸念するのが当初から倍増し、22兆円にも膨らんだ福島第一原発の事故対応費用だ。
東電は新々総特で事故対応費用の拠出方法なども記しているが、計画の大前提がいまだに稼働のめどが立たない柏崎刈羽原発の再稼働。柏崎刈羽ありきの新々総特が画餅に終わる可能性は極めて大きい。
そもそも、22兆円とされる事故対応費用も東電HDの廣瀬直己社長は「増えることはない」と強調するが、すでに当初計画から倍増していることを考慮すれば、不透明感が強い。
再編など不可能な現実
事故対応費用を計画どおり捻出できなければ、事業統合後の新会社の重しになる。巻き込まれる他電力は福島リスクを抱え込むことになるのはたまらないと再編と距離を置きたがるのも、もっともな話であろう。
各電力は条件次第と表向きは発言しているが、経営統合に踏み切れば、他電力にはリスクのほうが大きいとの見方は一致している。「業務提携レベルでの協力ならばできるが、事業統合ならば話し合う余地はない」(東北電力関係者)と慎重な姿勢を崩さない。
とはいえ、やっかいなのは東電HDがもはや一民間事業会社ではないことだ。株式の過半を国が握り、実質政府管理下にある。実際、今秋までに再編の条件を東電と国は詰め、他電力に条件を提示していく方針で、自社単独での統治能力はない。
他電力が「業界というより個社の判断になる」(電事連の勝野哲会長)と強調したところで、もはや東電をどうするかは国の原発政策そのもの。原発を捨てない選択をした以上、東電を軸にした再編は国策である。技術面などで、業務提携を拡大しながら、統合へと段階的に国が強硬に押し切るシナリオが濃厚である。
(文=編集部)