事業環境の悪化により、減少の一途を辿ってきた証券会社の数が上向き始めた。個人顧客の囲い込みに力を入れる地方銀行が証券子会社の立ち上げを急いでいるのに加え、規制緩和に伴って従来にないタイプの証券会社の創業も社数を押し上げている。証券業界は氷河期を脱することができるのか。
日本証券業協会が発表する「協会員の現況」によると、同協会に加盟する証券会社は3月期末時点で261社となり、前年期末比で5社増加した。リーマン・ショック以降、社数がもっとも少なくなった2016年3月期中には250社ほどにまで落ち込んでいた。
新興国の経済成長に伴って新興国投資が熱を帯びた08年には320社を超えたが、これがピーク。この年のリーマン・ショックで撤退を決めた外資系証券や、廃業を決めた中小証券が増え、翌年の減少幅は15社に達した。
氷河期入りした証券業界に追い打ちをかけたのは、東京証券取引所が導入した高速売買処理システム「東証アローヘッド」だ。コンピュータプログラムで1秒間に数千回もの売買が可能になっている外資系証券や投資家の要望を受け、東証が導入した。ベテランの株式ディーラーを抱えて自己資金で値ざやを稼いできた中小・地場証券は収益源を失い、撤退が相次いだ。「証券会社の将来像をイメージできなくなった」(撤退した証券会社社長)といったコメントとともに、経済紙ばかりか一般紙までもしきりに書き立てたのを覚えている人は多いだろう。
しかし中小・地場証券の撤退が一巡すると、それと入れ替わるように地銀の証券参入が社数を下支えするようになってきた。今年1月以降だけでも、七十七銀行子会社の七十七証券、京都銀行子会社の京銀証券などが参入。
地銀の参入が証券会社の再編を誘うのか、証券会社の再編機運が地銀参入の呼び水となっているのか、こんなケースもある。
北海道銀行と北陸銀行を傘下に収めるほくほくフィナンシャルグループは、東海東京証券の店舗網の一部を買収し、東海東京フィナンシャル・ホールディングスと共同出資のかたちでほくほくTT証券を立ち上げた。東海東京フィナンシャル・ホールディングスは昨年1月にも西日本シティ銀行との間で同じように共同出資の証券会社を立ち上げており、銀行関係者の間でも話題になった。
消去法的な経営判断
規制緩和により、これまでにないタイプの証券会社を設立する動きも始まった。中小企業の資金調達を支援する証券会社がそれだ。株式投資型クラウドファンディングと呼ばれるもので、インターネットを通じて非上場企業に対する投資マネーを少額ずつ集める証券会社が設立された。
これまで未公開株の投資勧誘は禁じられていたが、株式投資型クラウドファンディングや株主コミュニティ(地域に根差した非上場企業の株式売買や、資金調達を支える仕組み)などは日証協の規則で認められるようになった。
証券会社数を業界の“地熱”ととらえた場合、ホットな業界に戻りつつあるようにも見えるが、実際には「そうではない」(アナリスト)との指摘もある。社数を押し上げている地銀の証券業務参入は、消去法的な経営判断ともいえるからだ。マイナス金利で銀行預金が魅力を失い、地銀が預金者をつなぎ止めるために投資信託などを販売しようと証券子会社を設立している面があるためだ。
(文=山口義正/ジャーナリスト)
●山口義正
ジャーナリスト。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞記者などを経てフリージャーナリスト。オリンパスの損失隠しをスクープし、12年に雑誌ジャーナリズム大賞受賞。著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)。