5月に出版された書籍『ドキュメント 金融庁vs.地銀 生き残る銀行はどこか』(光文社/著:読売新聞東京本社経済部)は、大きな転換期を迎えている日本の金融界の現状について、金融庁と地域金融の双方を丹念に取材して同紙の担当記者がまとめた一冊だ。新聞社が紙面での連載記事をまとめた本は、既視感があっておよそつまらないものが少なからずあるなかで、本書は多くを加筆していることもあり、読む者を飽きさせない展開に仕上がっている。
金融庁というと一般の人には縁遠い存在のように思われがちだが、多くの人は銀行に預金という大切な資産を託しており、その銀行を監督しているのが金融庁である。つまり人々は金融機関を介して金融庁とつながっているともいえる。それゆえに、金融庁も金融機関が国民経済にどう役に立つべきかを常に意識しながら政策を考えている。
折しも、今年は山一證券など大型の金融破綻が連続した1997年からちょうど20年に当たる年である。翌年98年に金融庁の前身となる金融監督庁ができてから19年になる。大手金融の破綻連鎖の記憶はいまだ生々しいが、あの金融危機からもう20年も経つのである。この間に日本の金融はどんな変化をとげて今に至っているのか。その中心で常に存在感を発揮していたのが金融庁だった。本書ではその歩みをたどりつつ、いま金融行政の現場で何が起きているかが詳述されている。
地銀の意識改革
その金融庁が今向き合っているのが、全国各地に散らばる地方銀行などの地域金融機関だ。地方経済が疲弊するなかで、地域金融はどんな生き残り策を取ろうとしているのか。金融庁はまさにその点に照準を合わせてさまざまな政策対応を取ろうとしている。その中心にいるのが現在の金融庁長官、森信親氏である。
2015年に就任した森氏は明確な問題意識のもと、地銀に意識改革を迫っている。監督や検査の権限をカサに着ているわけではない。真に利用者に信頼される金融機関になるにはどうすればいいのかという視点から、改革の動きを引き出そうとしている。銀行が窓口販売で保険商品を取り扱う際の手数料の開示などもそのひとつである。そこにあるのは、銀行の手数料稼ぎのために、顧客が本来受けるはずのサービスが低下してはいないか、といった視座である。詳しい内容は本書にゆずるが、銀行や保険会社の示す反応は興味深い。
本書でもうひとつ特徴的なのは、知恵を使って顧客に寄り添う努力をしている、多くの地域金融の事例を紹介している点である。これまでは銀行のサービスはどこでも同じと思われがちだったが、銀行がリスクをとって工夫したサービスを提供することこそが、地域の大きな信頼を勝ち取る道であることがよくわかる。従来のような横並びの意識で果たして活路が見いだせるのか。どんな工夫をしなければならないのか。そうした問題意識と覚悟を、地域金融の経営者のみならず末端の担当者レベルまで問うた力作である。地銀のみならず金融サービスにかかわる関係者には必読の一冊である。
(文=編集部)