今、米国に加えユーロ圏、英国、カナダの中央銀行が金融政策の引き締めや正常化に向けた動きを加速させている。米国では、6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)にて、年内の追加利上げに加え、早いタイミングでバランスシートの縮小を開始する考えが示された。FRB(米連邦準備制度理事会)が開始から1年間の保有資産の削減ペースを公表したことを踏まえると、利上げよりも、バランスシートの縮小を優先させる意向は強そうだ。
それに加え、イエレンFRB議長は株式などの資産価格が割高であることにも言及し始めた。FRBは株式のバブルを警戒し、のちのちの金融緩和策の発動余地を確保しようとしているとみられる。FRB以上に衝撃だったのは、ユーロ圏でも金融政策が調整される可能性が浮上したことだ。世界的に金融市場が落ち着きを取り戻すなかで、ドラギECB総裁は従来の金融政策は緩和的すぎると考えているのだろう。そのため、早晩、ECBは国債の買い入れ額を徐々に削減し、市場・経済に供給するマネーの量を絞るオペレーションを行うとみられる。その背景には、インフレリスクへの警戒が強いといわれるドイツの政府、中央銀行からもECBの金融政策が緩和的すぎるとの批判が高まっていることがある。
徐々に高まる金融市場の価格変動性(ボラティリティ)
年初以降の金融市場では、株式を中心に、外国為替、金利(国債価格)の変動率が低下してきた。米国のS&P500株価指数の価格変動率=ボラティリティが歴史的な低水準まで低下したのを筆頭に、世界全体の金融市場で、相場の膠着感が高まってきたのである。この背景には、ITセクターでの成長への期待と、主要先進国の中央銀行が、慎重に金融政策を運営するという観測があったと考えられる。いうなれば、「今回は違う」という投資家の心理がリスク資産の上昇を支えてきたのである。
今、徐々にこの状況が変わりつつある。なぜなら、各国の金融市場の安定とリスク資産の価格上昇をサポートしてきた主要国の金融政策が、徐々に引き締め的なものへ変化しつつあるからだ。6月のFOMCにてFRBが利上げとバランスシートの縮小という政策の正常化を重視することは、ある程度は想定されていた。意外だったのはECBのドラギ総裁だ。これまでインフレ率が2%近傍の目標水準に達していないことを理由に金融緩和を重視してきたECBが、政策を調整する可能性を示したことは見逃せない。この場合の調整とは、金融緩和の度合いが低下し、引き締め気味に運営されることにほかならない。