4日、アニメ制作会社の株式会社アニメーションスタジオ・アートランドが債務整理を開始したことが各媒体にて報道された。負債総額は2億9,884万円(19年12月期決算時点)。
アートランドといえば、前身である有限会社アートランドの設立は1978年と、アニメ業界ではかなりの老舗。超ヒット作『超時空要塞マクロス』の企画から参加、『銀河英雄伝説』にも制作協力として加わるなど、大手アニメ制作会社のグロス請け(TVアニメの1話丸ごと制作を受託。クレジットでは「アニメーション制作協力:●●」などと表記)を長く続け、業界の信頼を獲得。00年代からは制作元請(TVアニメシリーズの制作を丸ごと受託。クレジットでは「アニメーション制作:●●」と表記)も始めるように。
制作元請を担った作品の中には、「東京国際アニメフェア第5回東京アニメアワード・テレビ部門優秀作品賞」ほか(05年)を受賞した『蟲師』など、高評価を受けさらに売上げも好調だった名作もあり、さらに近年でも『ラブライブ!』といった人気作品の制作協力を手掛けていた。
だが、帝国データバンクの7日付けの記事によると、13年11月期の年収入高は約2億6,000万円を計上したものの、製品製造原価に占める外注比率が約9割にのぼり、欠損計上が続いていた。16年12月期の年収入高は約2,100万円にとどまり、債務超過に陥っていた。
名作を手掛けた老舗スタジオの倒産だが、ネット上を概観しても動揺するアニメファンの声は意外と少ない。実は先月末から複数の現役アニメーターとおぼしきTwitterユーザーたちから、明言こそされなかったもののとある老舗スタジオが倒産したことを示唆するツイートがあったためだ。
加えてスタジオアートランドがアニメーション制作を務めていた、4月から放送開始の最新TVアニメ『sin 七つの大罪』は、途中で2回も総集編が放送された。結局6月までに最終第12話を放送できず、制作の進行が逼迫していたことがうかがえる状況だったことが影響したと思われる(第12話は有料チャンネルAT-X、ほか各動画配信サイトにて7月29日に放送・配信予定)。
同じく7日付けの東京商工リサーチの記事には「納品の延期なども重なり業績が急激に悪化」という一文もあるので、『sin 七つの大罪』以外の作品でも納期の遅れから発生する予想外の出費が多かったのだろう。
「制作が遅れてしまう要因は多種多様ですが、とにかく納期には間に合わせないといけない。進行がやばくなって、今いるスタッフだけで回せないとなると、制作会社さんは以前仕事をしたことがある、知り合いの知り合いなどといった伝手をたぐって、フリーランスのアニメーターさんたちに仕事を振りまくります。スケジュールに余裕があって、社内で回せればかからない原稿料が上乗せされることになりますし、特急料金も発生するでしょうし。クオリティー面を考えてもいい事は何もありませんが、TV局の放送時間は動きませんからね。
そうやって制作進行が遅れがちという作品は、エンディング時のスタッフクレジットを見ると大体わかりますよ。通常、TVアニメ1話あたり2~3人ぐらいであることが多い“作画監督”が、進行がやばい作品になると6、7人、ひどいときは10人ぐらいに増えるんです(笑)。安定した制作スケジュールを貫く東映アニメ作品だと1人だったりするのに。あとは監督補佐や原画マンあたりも数が増えがちですね」(アニメ誌ライター)
なお『sin 七つの大罪』第11話では、“作画監督”として11人もの名前が記されている。やはり相当ヤバイ状況だったのだろう。
アニメーターやアニメ制作会社社員の薄給・ブラック労働ぶりは、さまざまなメディアで取り上げられ、すっかり常識となった感もあるが、一方で日本のアニメ市場は活況。「一般社団法人 日本動画協会」の「アニメ産業レポート2016」によれば、アニメ産業市場(ユーザーが支払った広義のアニメ市場)は15年には約1兆8,255億円で、過去最高を記録している。ただし、この数字はエンドユーザーが支払った総金額であり、アニメ関連のすべての数字をまとめたもの。
アニメ制作・製作会社そしてアニメ業界市場(すべての商業アニメ制作企業の売上げを推定した狭義のアニメ市場)は、「日本動画協会」の統計が始まった02年に1,366億円を記録、その後05年に2,232億円まで数字をあげたものの、その後は数字を落として09年には1,457億円にまで落ち込んでしまう。10年から次第に数字は回復、15年には約2,007億円にまで回復はしているが、11年に全国419社であったアニメ制作会社は、15年には622社と約1.5倍にも増えているのだ。これでは、アニメーターやアニメ制作会社社員の待遇がなかなか上向かないのも納得だ。
先述の東京商工リサーチの記事によると、アートランドは業務を停止しておらず、さらに会社を買いたいという声がけもあったとか。歴史ある制作会社の版権や歴史が散逸せず、アニメーターや社員がアニメ制作を続けられるよう、事態が推移することを期待したい。
(文=編集部)