今、豆腐業界が危機に瀕している。町の豆腐店が次々と廃業しているのだ。豆腐事業所は、1960年には現在のコンビニエンスストア並みの約5万1000店だったが、2015年には約7500店まで減少した。
スーパーマーケットやドラッグストアなどの安売り競争にさらされていること、事業主が高齢化していることが主な原因だ。また、卸主体の豆腐メーカーも苦境に立たされている。今年1月には、首都圏を中心に高い知名度を有する豆腐メーカーの大山豆腐が倒産した。
日本の食卓に馴染みの深い豆腐は、これからどうなるのか。唯一の法人化した豆腐の業界団体である全国豆腐連合会(全豆連)業務執行理事の橋本一美氏に話を聞いた。
深刻な後継者不足とダンピング競争
――大山豆腐が倒産するなど、豆腐業界が苦境に立たされています。現在の概況は、どのようなものでしょうか。
橋本一美氏(以下、橋本) まず、お豆腐屋さんは、町の豆腐店に代表される「製造小売」と、スーパー・量販店などに販売する「製造卸」に分けられます。
実は、東京都内の町の豆腐店には新潟県出身者が多い。当時、長男は家に残りますが、次男や三男は地元を離れて仕事を探すことを余儀なくされ、馴染みのある豆腐は起業しやすかったのだと思います。
豆腐業界は、昭和30~40年が最盛期。今のコンビニに相当する5万数千店がありましたが、今や減少して約7500店にすぎません。私は10年前から全豆連に勤務していますが、当時は東京都豆腐商工組合の所属組合員が約800店ありました。しかし、今は休廃業や脱退もあって約300店を割っています。
ちなみに、大山豆腐は会員企業ではないため詳しくは存じ上げませんが、聞くところによれば、かなりの安売りをしていたようです。安売りは体力勝負なので、いつかは限界が来ます。
――豆腐業界の課題としては、どのようなことを認識していますか。
橋本 町の豆腐店は、後継者を確保することができていません。おおよそですが、確保できているのは3割ほどではないでしょうか。あとの7割は、休廃業の道をたどることになるかもしれません。
お豆腐屋さんの事業主は年齢構成が高く、団塊の世代またはそれより少し上の世代の方が起業して今日に至っています。元気なうちはいいですが、家族経営ですから、家族が体調を悪くして、そのまま店を閉じるというケースも多いです。
もうひとつは、厳しい価格競争にさらされていることです。昭和40年代からスーパーが台頭し、豆腐も目玉商品のひとつになると同時に安売り競争が始まりました。町の豆腐店は、価格勝負ではスーパーには勝てません。
一方、卸主体の豆腐メーカーも、スーパーからの要請にこたえるかたちでダンピング競争に巻き込まれてしまいます。価格帯はスーパーが指値で決めますが、豆腐メーカーには交渉の余地が少なく、そのまま安値を受け入れる会社も少なくありません。仮に「その値段では売れない」と言ったところで、スーパーは別の豆腐メーカーと交渉するだけです。
また、ドラッグストアは「薬で儲ければいい」というビジネスモデルで、豆腐に関しては「赤字になっても、広告宣伝費と思えばいい」というきらいがある。そのため、より安く売る方向に流れています。