小林氏の時代、富士ゼロックスは富士フイルムと対等か、それ以上の関係にあったといえる。古森氏が富士フイルムグループの顔になったのは、小林氏が引退した後だ。
06年、グループ再編により持ち株会社体制に移行。富士フイルムHDの傘下に、事業会社の富士フイルムと富士ゼロックスを組み入れた。一方で、フイルム技術を転用した液晶材料や医療事業などに経営資源をシフトさせ、事業構造を大きく転換した。08年3月期には、業績のV字回復を果たし過去最高益となった。
写真事業の抜本的な構造改革に成功した古森氏は、絶対的な権力者となった。だが、古森氏といえども、富士ゼロックスの経営に口を挟むことはできなかった。「優良子会社」の富士ゼロックスが稼ぐ収益で構造改革をやり遂げたという負い目があったからだろう。
今回の事件を機に、古森氏は富士ゼロックスの会長を兼務し、同社の首脳陣をほぼ全面刷新した。「これまでのように好き勝手にはさせない」という、古森氏の強い意思表示といえる
他方で、富士フイルムHDと富士ゼロックスの内部対立が激化すると予想する向きもある。
責任をとるべきは、ガバナンス能力が欠如した古森氏との指摘
6月12日の記者会見では、助野氏が出席して頭を下げたが、古森氏は出席しなかった。買収や提携といった前向きな会見であれば、古森氏が必ず出席して“独演会”となるが、この日は姿を見せなかった。
古森氏が安倍晋三首相の“応援団”という背景があるためか、そのガバナンス能力に言及した記事は見当たらない。経済ジャーナリズムも今、流行の“忖度”をしたのだろうか。
5月31日付時事ドットコム「首相動静」によると、「18時47分 東京・南麻布の日本料理店『有栖川清水』。葛西敬之JR東海名誉会長、古森重隆富士フイルムホールディングス会長らと会食」とある。
古森氏はリーダーの資質について常々、「社会や会社に対する使命感、全体のためにやる気持ちがないとダメだ」と語ってきた。
それならば、不正会計問題について、前面に出て説明する必要があったのではないか。頭を下げるのはプライドが許さないのだろうか。古森氏の好きな言葉は「勇気」だという。今回の行動を見る限り、「勇気あるリーダー」とは言いがたい。
富士ゼロックス社長に栗原氏が残留することを疑問視する声もある。会長、副社長が退任し、どうして社長は居残るのか。社長は何も知らなかったのか。情報が上がっていなかったのなら問題だ。「古森会長が指名した社長だから、首がつながった」といった社内の声なき声もある。栗原氏の経営責任についても、きちんと説明する必要がある。栗原氏は主に営業を担い、技術や経理は富士フイルム側が送り込んだ役員が担当すると説明しているが、それならば栗原氏は「社長」という名の付いた“営業マンのトップ”にすぎない。