寿命を画期的に延ばす物質が発見、日本で普及始まる…がん・認知症リスク低減にも期待
ビル博士は、人間のすべての細胞にロブスターや二枚貝のような細胞を若返らせる「テロメラーゼ遺伝子」があることを発見し、それが発動していない仕組みも解明したのだ。ヒト細胞は若返らないように“鍵”がかけられているという。ヒト細胞のテロメラーゼ遺伝子の近くには特殊なタンパク質があり、それが遺伝子を発動させないように抑制していた。簡単にいえば、ヒト細胞を若返らせる遺伝子を眠らせるための「眠りのスイッチ」の役割をしている特殊なタンパク質があり、それをビル博士が発見したのだ。
ビル博士は、この研究成果によって97年、米国の「その年の著名な発明・発案者」(National inventors of the year)を受賞する。
さらにビル博士は、この特殊なタンパク質を取り除く物質があるかもしれないという大胆な仮説を立て、99年から07年にかけて約6万の化学物質を調査した。その結果、「眠りのスイッチ」のタンパク質を取り除く画期的な物質「TA65」を発見した。ビル博士は、その物質を「テロメラーゼ誘導活性物質」と呼び、この発見に伴う特許も50以上取得している。ビル博士の発見は、細胞を若返らせる可能性があるのではないかと大きな話題となった。
寿命を延ばす可能性
今年5月18日、ビル博士が来日し、最新の研究に関する講演会が東京・虎ノ門ヒルズで行われた。会場には日本中から500名を超える専門家や大学教授、医療関係者などが集まり、ビル博士の発表に注目していた。
この講演会でビル博士は、自身が発見したテロメラーゼ誘導活性物質・TA65の80~300倍の効果を持つ「TAM818」を発見したことを発表した。実に40万近くの物質を新たに調査して発見したという。さらにビル博士は、最近のテロメアブームによる誤解についても説明を行った。
「テロメラーゼを体に取り入れればテロメアが伸びるという誤解があるようです。テロメラーゼを直接摂取しても、胃で分解されるだけで細胞には何も影響はありません。テロメアを伸ばすには、テロメラーゼ遺伝子を抑えているタンパク質を取り除くしかありません。それが、テロメラーゼ誘導活性物質であり、それを体内に取り入れることによってテロメアを伸ばす可能性があるのです」(ビル博士)
ブラックバーン博士は、健康寿命を延ばす方法として、「運動」「禁煙」「食生活改善」を推奨しているが、それはあくまでもテロメアが短くなるスピードを遅らせるだけで、テロメアを伸ばすことはできないと、ビル博士は言う。
「運動不足や喫煙など、ストレスのある生活によってテロメアが短くなるスピードが速まります。それを遅らせるためには、瞑想や運動、禁煙などの生活改善が役立つでしょう。しかし、それはテロメア短縮を遅らせるだけで、伸ばすことに寄与しません。人間は理論的には120歳まで生きられるといわれていますが、それは“理想的なテロメア短縮”が行われた時であり、ほとんどの人はその前にストレスや病気で寿命を迎えてしまいます。私が発見したテロメラーゼ誘導活性物質によって、テロメアを修復させ、本来来るべき寿命を延ばす可能性が出てきたのです」(同)
ビル博士は、がんについても20年間研究を続けており、テロメア短縮ががんの要因のひとつであることが明らかになったという。これはブラックバーン博士も同様に指摘している。さらにテロメアが短くなることが、認知症や数々の病気の要因になっていることが近年の研究でも次々にわかってきている。
ビル博士は、日本国内でのテロメア関連の医療及び事業展開のため、defytime Science Japan(ディファイタイムサイエンスジャパン、dSJ)と協力していくことを発表した。今後、日本全国のクリニックと提携し、テロメア分析キットの普及や、テロメラーゼ誘導活性物質の普及を行っていくという。
dSJの西平隆代表取締役は、次のようにその意義を語る。
「テロメアは、これからの健康の重要なキーワードとなっていきます。ヒトテロメラーゼの発見者であるビル博士と協力し、日本人の健康寿命を延ばしていくよう貢献していきます。今年から来年に向けて、大規模な展開を準備しています」
また、dSJと呼応するように、再生エネルギーの専門会社であるアースコムも、テロメア関連の普及事業に乗り出すという。
「弊社は、再生エネルギーという新分野において先駆者となりました。自然が持つポテンシャルを引き出すのがこれまでの事業だとすれば、テロメア関連の事業は、人間が本来持つポテンシャルを引き出す事業だと確信しています。21世紀のまったく新しいフロンティアがテロメアにあると思いますし、ひとりでも多くの方に健康で長生きしていただきたいという大義もあります。弊社はそこに挑戦していきたいのです」(アースコム代表取締役・丸林信宏氏)
今後、起こると予想される「寿命革命」のひとつに、テロメア研究が含まれることは間違いないだろう。人類は新たな領域へ踏み出したといえる。
近年、人生の質(QOL=Quality of life)が重視されるようになった。6月に亡くなられたフリーアナウンサーの小林麻央さんは、闘病生活のなか人生を一日一日大切に生きるQOLの大切さをブログというかたちで世間に伝えられた。「一日でも長く健康で過ごしたい」という願いは、いつの時代もなくなることはない。今年に入り、テロメアが大きなトレンドになってきているのも、QOLの大切さに目覚めた社会の要請なのかもしれない。
(文=鈴木領一/ビジネス・コーチ、ビジネス・プロデューサー)