多くのビジネスパーソンは、スーツを戦闘服とし、会社という戦場へ挑む。明治天皇が「正装は洋装とすべし」と布告し、男性がスーツを着用するようになってから約140年がたつ。
日本のスーツスタイルにおける変遷のなかで、戦後のアイビーブームが与えた影響は大きいだろう。アイビーブームは、米国の伝統的エリート大学である「アイビー・リーグ」と称される8校の学生たちの服装をマネするブームだ。そのアイビーブーム真っ只中の1965年に発行された写真集『TAKE IVY』(ハースト婦人画報社)は、「アイビー・スタイルのバイブル」とも称された幻の本だが、現代ではファッションを通して時代を振り返ることができる歴史的資料ともいえる。
そんな「TAKE IVY」にも負けない存在感を放つ写真集『JAPANESE DANDY』(万来舎)をご存じだろうか。2015年に発売された『JAPANESE DANDY』は130人の被写体により、日本人だからこそ表現できる独自のテーラードスタイル(スーツ風の服装)がそれぞれに表現され、海外でも高い評価を受けた。
その魅力は、イギリス・ロンドンのサヴィル・ロウ15番地に本店を構える有名紳士服テイラー「ヘンリープール」の店主の目にもとまり、直々に店に置きたいとの依頼があり販売されたほどだ。さらに、米ニューヨークや中国・香港のセレクトショップでも販売されるなどの評判の良さを受け、170人のモデルを起用した『JAPANESE DANDY Monochrome』(万来舎)が今年5月、発売された。
両書の企画プロデューサーである河合正人氏に話を聞いた。
テーラードスタイルで生活を楽しむ幅を広げる
すべてがカジュアル化した今、テーラードスタイルは、ある種“マイノリティ”ともいえる。しかし河合氏は、「そんな時代だからこそ、あえてテーラードスタイルを楽しむことを提案したかった」と話す。
「おシャレをすることで、生活を楽しむ幅が広がる一面があります。若い世代でもシニア世代でも、お気に入りのスーツが1着でもあることで、週末にはパートナーと食事に行こうといった気持ちが起きると思うんです。ファッションによってよりアクティブになれる。それならば、自分に合ったテーラードスタイルを提案したいと思いました」(河合氏)
起用した被写体には、誰一人としてプロのモデルはいない。なぜなら河合氏は、つくられたスタイルでは意味がないと考えたからだ。ファッションが好きな人が、ファッションも自分自身も知り尽くしたうえで着る独自のスタイルはさまざまである。
「プロのモデルを起用しなかったことで、背の高い人もいれば低い人もいる。痩せている人もいればがっちりした人もいる。写真集を見た誰もが自分を投影できるイメージが見つかるんです」(同)