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資生堂・コーセー・ポーラ、コロナ下での経営戦略研究…日本の化粧品、中国市場を制す

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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資生堂 HP」より

 新型コロナウイルスの感染が続くなか、国内化粧品各社の収益状況は厳しい。直近の決算資料を見ると、最大手の資生堂をはじめ、コーセー、ポーラ・オルビスホールディングス(以下、ポーラ)はいずれも減収減益だ。注目したいのが、業況が厳しいなかで、各社が中国市場でのシェア拡大に向けた取り組みを強化していることだ。

 特に重要なのが、中国の消費者にとって日本製の化粧品は“安心かつ安全”な製品の代表格であることだ。各社が強み(コア・コンピタンス)をしっかりと認識し、魅力をさらに磨こうとしていることは重要だ。それに加えて、国内の化粧品各社は、多様化する中国の販売チャネルという変化にも対応しようとしている。

 当面、新型コロナウイルスの感染によって化粧品各社の事業環境は不安定に推移するだろう。各社に求められるのは、経営トップが強いリーダーシップを発揮して、強みの向上と販路の多様化および拡大に粛々と取り組み、成果を実現することだ。

中国で人気集める“日本製”の化粧品

 現在の世界経済において、もっとも回復が先行し、なおかつ成長への期待が高まっているのが中国だ。世界の化粧品業界にとって中国以外に成長が期待できる市場は見当たらない。その中で、日本の化粧品各社はうまく差別化を図っているといえる。

 その要因の一つが、中国の消費者が日本の化粧品ブランドに安心で安全なイメージを持っていることだ。つまり、“メイド・イン・ジャパン”の製品は安心と安全の象徴であり、憧れの存在だ。同じことが自動車などにも当てはまる。重要なことは、何が強みかを経営者が明確に認識することだ。

 ピラミッドをイメージするようにして化粧品業界の競争関係を確認すると、日本の化粧品企業のポジショニングがより良く理解できるだろう。ピラミッドのハイエンド(上位)に位置する代表企業の一つが仏ロレアルだ。ロレアル傘下のランコムは、高級化粧品の代表ブランドとして知られている。また、仏シャネルの化粧品も高価格帯ブランドに位置付けられる。いずれも、贅沢の象徴であり、“富”や“成功”、“豪華な美”といったブランド・イメージを持つ。価格帯が高い分、販売量の高い伸びは期待しづらい。

 次に、日本の化粧品ブランドはピラミッドのミドルエンド(中位)に位置付けられる。欧米の高級ブランドに比べ、日本の化粧品の価格帯は低い。それに次いで、ローエンド(下位)に位置するのが、韓国のアモーレパシフィックやLG生活健康、中国のローカルブランドだ。

 そうした競争関係のなかで、資生堂コーセー、カネボウは国内での生産設備の増強を重視してきた。また、ポーラは静岡県の袋井工場を主たる生産拠点として運営している。それが意味することは、日本で製造された化粧品であることが、差別化を支える要因だということだ。その考え方を基に、コロナショックによって業績が悪化した状況下、コーセーは国内工場の稼働を延期している。相対的な中国経済の成長期待を考えると、ミドルエンドの化粧品市場は拡大するだろう。それを手に入れるために、化粧品各社にとって、機動的に経営資源(ヒト・モノ・カネ)を再配分して、中国での需要獲得を目指すことの重要性は高まっている。

中国市場における販売チャネルの多様化

 それに加えて、各社は中国の消費チャネルの多様化にも対応している。各社はEコマースや実店舗の強化に取り組み始めた。その要因として、新型コロナウイルスの感染拡大によってインバウンド需要が消滅したことと、中国経済のデジタル化(DX)が加速していることの影響は大きい。

 2012年12月に始まった日本の景気回復にとって、中国人観光客の増加に代表されるインバウンド需要は大きかった。中国からの来訪客は、転売目的と自家消費のために日本の化粧品を買い求めた。中国政府が転売への規制を強化した後は、自家消費としての需要が日本の化粧品企業の業績を支えた。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本へのインバウンド需要は蒸発した。その結果、化粧品各社にとって、需要回復が鮮明な中国市場に出ていき、販路を開拓する重要性は急速に高まっている。

 また、コロナショックを境に中国ではDXが加速している。11月1日から11日にかけてIT大手アリババが実施した“独身の日セール”において、化粧品など嗜好品の販売が増加したのは重要な変化だ。一般的に、コロナショックを境に中国の消費者の節約志向が強まったといわれる。日用品の需要が不安定化したことを見ると、その影響は軽視できない。それに加えて考えたいのが、中国の消費者が、これまで以上に価格に見合った品質にこだわり始めたことだ。つまり、何が必要(大切)かが、コロナショックによってよりはっきりしたということだ。

 それを確認する良い例が、独身の日セールの期間中に資生堂が行ったライブコマース(販売実演)だ。これまで中国の消費市場では、多くのSNSフォロワーを持つ“インフルエンサー”の発言などが消費に影響を与えてきた。その一方で今回、資生堂は自社のブランド責任者などによるプレゼンを行った。それが示唆することは、中国の消費者が自分の感覚で品物の良しあしを判断する考えを強めていることだ。言い換えれば、消費者の個性を念頭においたマーケティング戦略の重要性が高まっている。そう考えると、中国事業の出遅れ感が指摘されてきたポーラが中国の免税店事業を強化することも興味深い。

化粧品各社に求められるさらなる取り組み

 以上をまとめると、日本の化粧品企業に必要な事業戦略が明確化できるだろう。それは、安心・安全というイメージをさらに磨き、リアルとネットの両面で消費者とより多くの接点を持ち、関係を深めることだ。

 安心・安全というブランド・イメージに磨きをかけるために、各社にとって自社の競争優位性の源泉である国内でのモノづくりの力を高めることの重要性は増している。直接肌につける化粧品への信頼は、一朝一夕に確立できるものではない。

 また、コロナウイルスの発生によって世界の消費者が健康への意識を高めている。化粧品各社はこれまで以上のスピード感をもってスキンケア商品などの開発を進め、安心・安全という魅力に磨きをかけることができるだろう。世界の化粧品企業が中国市場でのシェア拡大をより重視していることを考えると、商品開発のスピードの重要性は追加的に高まっている。

 また、各社は自社製品の優位性を消費者に、より明確に伝えなければならない。その点に関しては、どのように実店舗とEコマースの両面で消費者とのより良い関係を目指すことができるか、試行錯誤が続くだろう。中韓の化粧品企業による価格競争やSNS上でのマーケティング攻勢が想定されるなか、わが国の化粧品各社は、あきらめずに、粘り強く消費者に自社製品の優位性を伝え、共感を得なければならない。反対に、そうした取り組みが遅れると、中国市場でのシェア獲得は難しくなるだろう。

 今後の世界経済は、新型コロナウイルスワクチンが、いつ、どのような効果を発揮するかに左右される。また、コロナショックを境に世界に浸透したテレワークなどの生活様式の変化によって、一部産業の需要はコロナ禍以前の水準に戻らない恐れがある。経済全体の不安定感が高まりやすい中、化粧品各社にとって、コア・コンピタンスの向上と、多角的なマーケティング戦略に取り組むことの重要性はかつてないほど高まっている。そのために、各社の経営トップが組織全体を一つにまとめ、明確な意思決定を行って機敏に変化に対応していくことを期待したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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