経産省主導の新日米連合案は空中分解の可能性
日米連合の買収総額は1兆9000億円。東芝が当初から掲げていた2兆円に届かない。そこで、ゆうちょ銀行などの資金を加えてなんとか2兆円程度にまでしたい考えだ。同業の半導体メーカーWDが加わると、各国の独占禁止当局の審査が長引くため、WDは当初、出資ではなく東芝メモリが発行する転換社債を引き受けて1500億円を拠出することで審査を逃れようとしている。それでも中国の審査が6カ月以内に終了するかどうかは不明だ。仮に9カ月かかったら、18年3月末のタイムリミットに間に合わなくなる。
WHの損失を穴埋めするために最低でも2兆円は譲れないとしてきた東芝が、果たして1兆9000億円プラスアルファで納得するのだろうか。
東芝社内には、WDに対する強い不信感がある。綱川氏が、経産省にいいように振り回されてWD案をのんだとしたら、社内の半導体部門の反発は一層、強まるだろう。
WDのスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)が当初、東芝メモリが発行する転換社債を引き受ける案を受け入れたとしても、「WDの狙いは東芝メモリの完全支配。株式への転換を早期に求めるだろう」(外資系証券のアナリスト)との見方が強い。東芝は、「WDが出資するにせよ、10年間の保有比率を2割以下にするように求めている」(関係筋)という。
だが、WDがこんな微温的な案をのむ可能性は低い。なぜなら、WDはM&A(合併・買収)を繰り返し、急成長してきた“野武士企業”だからだ。M&Aで傘下に収めた企業が、たまたま東芝と半導体で提携していたから関係ができただけで、東芝がWDを三重県・四日市工場を運営するパートナーに選んだわけではない。
東芝の主要銀行3行は「8月中の売却契約の締結」を強く求めていた。「8月中に売却先が決まらなければ、融資枠から資金を引き出せなくなる」と最後通告したという。
交渉妥結の見通しが立てば、ミリガン氏が月内に来日して綱川氏トップ会談を行い、詰めの協議を行う。合意できればWDは売却差し止めを求める複数の訴えを取り下げるとされているが、WDの態度次第では、急ごしらえの日米連合が吹き飛ぶ可能性もゼロではない。そうなった場合、東芝メモリの売却を断念して、東芝が第三者割当増資を実施して国内外から出資を仰ぎ債務超過を解消する案や、東芝メモリ以外の事業を売却するといった新たな経営再建案を策定する必要に迫られる。東芝メモリを国内で新規株式公開(IPO)するというウルトラCもある。
東芝メモリの買収に3兆円近い金額を提示しながら、経産省に門前払いされた台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)の出番がやってくる可能性もある。
なお、KKR、産業革新機構、日本政策投資銀行の出資額は、それぞれ3000億円といわれている。残りは銀行からの融資で買収資金を確保し、ゆうちょ銀行まで数合わせで加えられることになっている。
(文=編集部)