真ん中に位置するプレーヤーは誰かというと、アップルやグーグルが決めた仕様通りにスマートフォンというハードウェアをただつくっているだけの人たちだ。それが国内電機メーカーである。
国内メーカーがスマートフォンから相次いで撤退してきたのは、そういう立ち位置では富を生み出せないことをまさに物語っているのだ。
言われた通りにやるだけの仕事は取って代わられる
では、鴻海はなぜスマイルカーブの真ん中の立ち位置でいられるのだろうか。
それは、人件費が安いからである。高度成長期の日本は現在の鴻海のような立ち位置だった。「誰よりも安く、かつ、高品質でものをつくってあげます」という“世界の工場”としての役割が、多くの日本企業の強みだった。
しかし、そういう時代を経て日本はすっかり豊かになった。その結果、アジア諸国に比べると、日本人の人件費は少なくともワーカーレベルにおいては、非常に高くなってしまった。今や日本は“世界の工場”の役割は担えないのである。人件費が高いこと自体は決して悪いことではない。それは、国が豊かになったということだから、むしろ誇るべきことだ。
本質的な問題は、高い人件費に見合う付加価値を生み出せていないことだ。「誰かの考えたことを、言われた通りにただやる」というだけの仕事は、豊かになった日本という国では高く評価されないのである。
製造業に関していえば、日本人はすぐに「ものづくりニッポン」と言うが、「ものづくり」の意味をもっと広く捉える必要があるだろう。多くの人がイメージするであろう「加工・組み立て」だけを「ものづくり」と捉えるのは狭すぎる。スマイルカーブの両端を含めて「ものづくり」と考える必要があるだろう。むしろ、スマイルカーブの両端こそが先進国が担うべき「ものづくり」なのかもしれない。
これは、製造業に限ったことではない。すべての仕事において、言われた通りにやるだけの仕事は早晩取って代わられる。これからは、外国人に取って代わられる前に、AIやロボットに取って代わられる可能性も出てきている。
スマイルカーブに沿って自分の仕事を見つめ直してみることは、すべての人に求められる視点だろう。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)