1月8日、コナミデジタルエンタテインメントは、2020年11月19日に発売したNintendo Switch用ゲーム『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』(以下、桃鉄令和)のダウンロードを含む累計販売本数が、200万本を突破したと発表した。
「桃鉄」の愛称で親しまれている桃太郎電鉄シリーズは、双六をベースとしたボードゲーム。あらかじめ設定した年度の間サイコロを振って目的地へと向かい、物件の購入による収益や目的地到着の援助金で資産を増やし、最終年度での総資産額1位を目指すというルールとなっている。
1988年12月2日にファミリーコンピュータ(ファミコン)用ソフトとして発売された第1作『桃太郎電鉄』から20年近く、ほぼ毎年新作が発売されていた桃鉄シリーズ。だが、2010年のニンテンドーDS用ソフト『桃太郎電鉄WORLD』でシリーズ展開が途絶え、桃鉄令和までに家庭用ゲーム機のソフトとして発売されたのは、2016年のニンテンドー3DS用ソフト『桃太郎電鉄2017たちあがれ日本!!』だけだった。
4年ぶりかつ継続的なシリーズ展開がされていなかったなかでの新作ながらも、見事に大ヒットを記録したわけだが、はたして好成績を収めた要因はどこにあったのだろうか。ゲームコラムニストの卯月鮎氏に話を聞いた。
業界関係者も予想外だった桃鉄令和の爆発的なヒット
そもそも、桃鉄はどういった部分が支持を得ていた作品だったのだろうか。
「『桃太郎電鉄』はもともと、1987年に発売された『桃太郎伝説』というRPGのスピンオフ作品で、当時は友人や家族と集まって大人数で遊べるファミコンのボードゲームが少なかったこともあって、発売されるやいなや注目を浴びました。
カードを使った戦略の要素と、止まったマスで起こるイベントやプレイヤーに不幸をもたらす貧乏神など、運の要素のバランスが絶妙で逆転が起きやすく、どのプレイヤーにも見せ場ができることが支持されてきた理由ですね。鉄道で日本全国を巡るというテーマの身近さや、テレビゲームに不慣れな人でも参加しやすいゲームシステムも親しまれた要因でしょう。
今回の最新作も基本的なルールや登場キャラクター、逆転に次ぐ逆転が起こるゲーム展開などシリーズ定番の要素が踏襲されています」(卯月氏)
桃鉄令和の発売前、ゲーム業界内ではここまでの大ヒットになると予想されていたのだろうか。
「2020年のクリスマス・年末商戦に発売が予定されていたソフトのなかにパーティゲームが少なかったということもあって、ある程度手堅い売上を記録するだろうと予想はされていました。ですが、いきなりミリオンを超えると考えていた人は相当少なかったように思いますね。
およそ1カ月で累計販売100万本、さらに2カ月弱で200万本という数字はかなり驚くべき記録で、あちこちから驚きの声が上がっていました。また、今回の好調を受けて改めて桃鉄のパーティゲームとしてのポテンシャルの高さや底力を評価する声も耳にします」(卯月氏)
不変のゲーム性と待望のオンライン対戦などが心を掴んだ
卯月氏によれば、桃鉄令和ヒットの要因は大きく分けて3つあるのだという。
「1つ目は親子で遊ぶタイトルとしての需要が生まれたこと。2つ目はオンラインプレイが導入されたこと。3つ目は動画映えするゲーム性であること。この3つがヒットの要因と考えられます。
1つ目は、昔の桃鉄シリーズを遊んでいた子どもたちが時を経て親世代となり、親子で安心して遊べるゲームとして新たな需要が生まれたと考えられます。
2つ目は、オンラインでの対戦はかねてからファンに待ち望まれていた要素で、今回初めて実装されました。年末年始を家で過ごすなかで友人にオンライン対戦に誘われてソフトを購入した、という声も多く聞かれたので、巣ごもり需要による後押しも大きいですね。
3つ目は、ゲームの実況動画はここ数年で一般的なものとなり、現在は芸能人がゲーム実況をするようになりました。桃鉄はほかのプレイヤーよりも先に目的の駅に着くというルールが非常にわかりやすく、カードによる逆転の要素もあり、見ているだけでも楽しいタイトルなので、実況動画が数多く投稿されています。
発売前から公式サイトにお笑い芸人の方々を起用した対戦実況動画を投稿していたので、ゲーム実況動画の影響力・宣伝力は強く意識されていたのではないでしょうか」(卯月氏)
オンライン対戦の初実装が巣ごもり需要と、ゲーム性がゲーム実況動画の隆盛と結びついた、いわば時流に乗ったがゆえのヒットともいえる桃鉄令和。今回のヒットを機に、かつてのような継続的なシリーズ展開が再開されるのだろうか。
「現在、ゲームはロングセラータイトルが増加し、長寿命化が進行しています。シリーズ展開は充分に考えられますが、以前のように毎年新作を出すとなるとマンネリ化に陥りますし、今のゲームシーンでは非現実的です。
ですから次々と新たな作品を出すよりも今作の販売本数を伸ばすために、ソフトのアップデートやコラボイベント、芸能人と対戦できるような企画を開催し、追加コンテンツを販売するというやり方のほうが現実的でしょう。実際、昨年12月24日のアップデートで『ゲストと対戦!』機能を追加し、フレンド以外のプレイヤーとも遊べるようになっています。
また、オンラインゲーム『フォートナイト』がトラヴィス・スコットさんや米津玄師さんのバーチャルライブを開催したように、ゲームをさまざまな遊びや楽しみを提供するプラットフォームと位置づけようとする動きもあります。
桃鉄令和では難しいかもしれませんが、ゆくゆくは桃鉄自体がほかのボードゲームのプラットフォームになる、旅行サイトやグルメサイト、イベント情報サイトを兼ねるといった方向に進んでいくかもしれませんね」(卯月氏)
復活の狼煙(のろし)を上げた桃鉄シリーズがどこへ向かうのか、令和のパーティゲームの“定番”となれるのか……今作を楽しみつつ、今後の動向に注目したいところだ。