最近の消費増税、経済成長に本当に悪影響はあったのか…総選挙前に増税インパクトを再考
では、2014年及び1989年・97年のケースではどうか。既述のとおり、80年代の実質GDP成長率(年平均変化率)は4.4%、90年代は1.6%であったが、直近は1%程度である。これを四半期データで表現すると、80年代のトレンド成長率(前期比)は約1.1%、90年代は約0.4%、直近は約0.25%となる。
そこで、この値を「トレンド成長率」と仮定し、各ケースにおいて「実質成長率-トレンド成長率」を計算したものが以下の図表2である。なお、データは、内閣府「四半期別GDP速報」の統計表(1994年1-3月期~2017年4-6月期 2次速報値、17年9月8日公表)及び平成17年基準支出系列簡易遡及(1980年1-3月期~93年10-12月期)を利用した。
図表2・横軸の「増税期」は、各々(2014年及び1989年・97年)の「4-6月」、「1期後」は「7-9月」、「1期前」は「1-3月」等を表し、増税期における「実質成長率-トレンド成長率」は「89年(2.4%減)>2014年(2.1%減)>1997年(1.5%減)」となっている。つまり、14年の増税インパクト(4-6月期の実質GDPの落ち込み)は、1997年ケースよりも大きいが、89年ケースよりも若干小さい可能性を示唆する。
影響は概ねニュートラル
なお、興味深いのは、増税インパクトである。2014年と1989年の増税幅は3%であるが、97年の増税幅は2%であった。これは、1%当たりの増税インパクトを試算すると、89年が0.8%減(=2.4%減÷3)、2014年が0.7%減(=2.1%減÷3)、1997年が0.75%減(=1.5%減÷2)であることから、1%当たりの増税インパクトは0.7~0.8%減である可能性を示唆する。
しかも、図表2の各々(2014年及び1989年・97年)のケースについて、同じく増税5期前の実質GDPを100とし、トレンドGDPと実際の実質GDPの乖離を描いたのが以下の図表3である。このうち89年のケースを見ると、増税期と増税1期後(89年7-9月期)は「実際のGDP<トレンドGDP」であったが、増税4期後(90年4-6月期)には大きく逆転している。しかし、バブル崩壊の影響を受け、増税10期後(91年10月―12月期)以降では再び「実際のGDP<トレンドGDP」に陥っていく。
また、97年のケースでは、増税期のみでなく、増税1期後(97年7-9月期)以降で「実際のGDP<トレンドGDP」となり、それ以降もその差が拡大していることがわかる。ただ、これは、97年11月の三洋証券の破綻から始まった「平成の金融危機」の影響が少なからずあると考えられる。
他方、2014年の増税時については、増税3期後以降、実際のGDPとトレンドGDPの乖離は縮小方向にあり、増税6期や7期を除き、増税12期後(17年4月-6月期)でも「実際のGDP>トレンドGDP」となっている状況が読み取れる。このため、増税が経済成長に及ぼした影響は概ねニュートラルであった可能性が高い。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)