玉川氏はアマゾンを退社後、14年11月にIoTのプラットフォームを構築するため、ソラコムを設立。15年9月にサービスを開始した。中小企業を中心に7000社の顧客を持つ。
このIoT通信ベンチャーには、名だたる企業が出資した。投資会社のスパークス・グループが運営する未来創生ファンド(スパークスのほかトヨタ自動車、三井住友銀行が出資)をはじめ、三井物産、国内外の投資ファンドが顔を揃えた。
ベンチャー企業は新規上場して、IPO(株式新規公開)の際にファンドなどの出資者は資金を回収するのが常道とされてきたが、玉川氏はソラコムを身売りすることを選択した。KDDIに超高値で譲渡することで、出資者はハイリターンを手にした。
KDDIに買収された後も、社名、社長、ブランド名はそのまま残した。玉川氏ら創業メンバーは、株式を持ち続ける。大手企業に属さない独立系では資金的な制約があるため、グローバル企業に飛躍するのは難しい。KDDIの傘下に入ることで独立性は失うが、グローバルなIoT企業になるという野望を追い続けることはできる。
KDDIは、16年度からの3年間で5000億円規模のM&Aの投資枠を設定している。狙いはIoT分野だ。今年2月、クラウドサービス開発のベンチャーであるアイレットを買収した(買収額は非公開)。ソラコム買収資金も5000億円の投資枠から出ている。
これまでCVC投資は、IPOが資金回収の場だった。NTTドコモも人工知能(AI)やIoTの分野を中心に、本業である携帯電話やIT(情報技術)サービスとの相乗効果が見込めるベンチャーに出資してきた。投資額は1社につき1億~2億円程度だ。リスクを分散するためには、この程度の出資額が、いわば常識だった。
それだけに、KDDIによる200億円かけた買収はケタ外れといえる。その分、リスクは高くなるが、株式市場はKDDIのベンチャー投資を評価した。7月下旬まで、NTTドコモとKDDIの株価は格安スマホの台頭で下落していたが、KDDIの株価はソラコムの買収発表を機に底を打った。
CVC投資の巧拙が株価に反映する時代になったといえる。
(文=編集部)