費用負担の差は小さい?
若者の都会志向もさることながら、最近は大学側も地方都市にキャンパスを構えることに限界を感じ始めている。大学の誘致を担当している、ある地方自治体の職員は言う。
「東京や大阪の大学に進学すると一人暮らしになりますから、学費のみならず仕送りなど親の負担は重くなります。地元の大学に進学すれば、仕送りは不要です。金銭的な負担が軽くなることを理由に、地元の大学を紹介することもあります。しかし、親の反応はあまりよくありません。東京や大阪の大学なら一人暮らしになりますが、地元の大学に進学すると通学に自動車を買う必要が出てくるからです。ガソリン代・駐車代もかかります。また、自動車運転免許を取得する費用も必要です。そうした自動車通学による諸経費を考慮すると、東京・大阪の大学に進学するのと地元に残るのとでは親の負担はさほど変わらないのです。親も『それだったら、ネームバリューがある東京や大阪の大学に進学させたほうがいい』という気持ちになってしまうようです」
東京や大阪などの都市圏とは異なり、地方の大学は駅から遠い場所に立地しているケースが多い。そうした通学の足を補完するべく、地方の大学は駅から大学キャンパスまでスクールバスを運行したり地元のバス会社に駅と大学間の路線を新設してもらったりしている。
大量の通学難民
しかし、そのバス運行も難しくなりつつある。今般、ネット通販の取扱量が増大したことでトラックドライバーが不足する事態が発生。社会問題として大きく報道された。実は、不足しているのはトラックドライバーばかりではない。バスの運転手も深刻な人手不足に悩まされているのだ。バス業界関係者は、こう打ち明ける。
「2014年頃まで、バスの運転手は欠員が出ても募集をかければすぐに応募がありました。ところが団塊の世代が一斉に退職してしまった14年後半から人手不足が顕在化するようになり、現在はどこのバス会社も運転手不足に陥っています。トラックだったら大型1種免許があれば運転できますが、バスは大型2種がないと乗務できません。そうした事情もあって、トラック運転手よりもバス運転手のほうが人手不足感は強くなっています」
バスの運転手不足によって、地方の大学では通学が困難になるという通学難民の学生が大量に発生しつつある。バスの運転手不足という、思わぬ方向からの難題に大学関係者も困り顔だ。
「自治体としても大学が移転されたら地域に与える経済的な損失は大きいので、行政としてもバス会社に『通学用のバスをなんとかできませんでしょうか?』とお願いに回っています。交通手段がないから学生が集まらず、学生が集まらないから、バス会社も運行しない。まさに、負のスパイラルです」(前出・自治体職員)
バス運転手不足によって大学が撤退し、地方はどんどん活気を失う。このままだと、地方都市は一気に少子高齢化が進んでしまうだろう。現状、大学側にも自治体側にも、そしてバス会社にもそれを打破する良策はない。
地方都市が期待を寄せる、大学誘致によって地方振興を図るという目論見は、絵に描いた餅で終わってしまう公算が高い。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)