横綱・日馬富士が平幕の貴ノ岩に暴行した事件で、相撲界が揺れている。いち早く警察に被害届を提出して刑事立件の可能性を選んだ貴ノ岩の貴乃花親方の行動を疑問視、あるいは非難するような論調も多く見受けられる。また、ビール瓶による殴打の有無、貴ノ岩の症状の評価についても情報が錯綜している。
しかし、この問題の根本は単純に考えたほうがいい。つまり、暴力の有無と、角界最高権威である横綱の尊厳だ。日本相撲協会内での理事長選挙との関連など、派閥争い的な見方を絡ませると問題の本質が見えなくなってしまう。基本的に、貴乃花親方の対応は正しかった。
真相は藪の中だが、わかっていることで十分だ
当初、殴打がビール瓶で行われたと報道され、大いに驚かされた。未確認報道のなかには、日馬富士が激昂してアイスピックを手にして、それは制止されたというものまであった。ビール瓶の使用については、白鵬が「それはなかった」と証言しているが、警察が居合わせた全員から聴取を進めているというので、早晩明らかになるだろう。
日馬富士自身は、とりあえず殴打を認めている。この事件で重要なことはただひとつ、「横綱という角界最高位にある者が暴力事件を起こした」ということなのだ。これだけで、日馬富士は引退に値する。以前に横綱・朝青龍が暴力事件を起こし引退したのと同じ構図だからだ。
事件後、貴ノ岩が日馬富士に謝罪したとか、2人が和解の挨拶をしたなどといわれているが、それは瑣末なことであり、あるいはうわべのことと理解すべきだろう。被害届提出による刑事告発という、法治国家に暮らす国民として公式な手続きを踏んだことが、被害者側の正式な対応として受け止められるべきだ。
被害を受けた後に貴ノ岩が巡業に参加していたこと、通常どおり日常生活を送っていたことが指摘されているが、診断書が異なる医師から2通も提出されていることは絶対的だ。診断の日時がずれているので所見が異なるところもあるが、傷害の存在については共通している。
交通事故の場合でも、直後無理して行動していた被害者が、やがて自覚症状が強まり動けなくなったという経過は珍しくない。傷害によって休場を余儀なくされたばかりか、入院したという状況を素直に受け止めるべきだ。そして、それは重大なことだ。