殴られたら、まず警察へ行く
事件を受けて、貴乃花親方が警察に被害届を出したことに批判的な論調がある。東京相撲記者クラブ会友の杉山邦博氏は、16日放送の『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)で、次のように指摘した。
「貴乃花さんは巡業全体を掌握すべき立場です。その過程で起きた出来事ですね。警察に被害届を出した事実がある以上、重役として協会トップはじめ、親方や理事らに相談や報告するなり、話を通していないとおかしいんです」
確かに警察への届け出の後に速やかに協会に報告しなかった、というのは謗りを受けざるを得ないかもしれない。しかし、一部に「まず協会に届け出るべきだった」という論調があるのは首肯できない。暴力沙汰は犯罪なのだから、まず司法に駆け込む、というのが市民の取るべき第一行動だ。実の両親を亡くし日本という外国で精進してきた貴ノ岩にとって、貴乃花親方夫妻は両親同然、親方にとっては子同然として貴ノ岩を大事に育ててきた。子供が入院するほど殴打されたら、まず警察に行く、というのがあるべき対応ではないか。
法的事象は所属組織の規範に優先するのだが、所属する組織や会社に相談すると、外聞などを気にしていろいろな思惑でもみ消されるリスクがある。近年重視される内部告発も、第三者的な受け皿が必要とされるゆえんだ。
貴乃花親方が速やかに相撲協会に届け出なかったこと、そして相撲協会からの初の聴取では「よくわからない」と答えたことが議論を呼んでいる。もちろん「よくわからない」はずはなく、診断書を持って警察に被害届を出したのは貴乃花親方だし、その際に事件の概要を説明したはずだ。
つまり、相撲協会に対して「わからない」としたのは、相撲協会に対する貴乃花親方の不信の表明と取るべきなのだ。協会に話してもうやむやにされてしまうとか、被害届の取り下げの圧力がかかるため、協会チャネルではなく警察に任せてしっかり立件されるのを待とう、という判断だったのではないか。
こうした貴乃花親方の行動を、1月に行われる相撲協会理事長選挙に向けた動きとしてとらえる見方には、私は与することができない。ましてや、巡業部長である貴乃花親方を次の巡業に帯同させないという動きが相撲協会にあるなど、暴行被害者側に対する不当な圧力、人権侵害となると強く警告したい。