「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
メディアでは「10年後に消える職業」といったニュースがよく報道される。AI(人工知能)などの進化は確かに脅威だが、一方で、取材すると「そう次々に、現在の職業がなくなるとは思えない」(グローバル企業の経営トップ)という意見もある。
ただし、かつての花形職種が経済環境の変化で厳しい状況に置かれることもある。たとえば、主に男性向けの散髪を行う理容師は「1000円カット店」などの影響で、若手が独立しにくい職業となり、全国的に理容室(床屋さん)は減っている。
そうしたなかで、今回は出版系メディアで仕事をする「カメラマン」を紹介したい。かつて紙媒体の全盛期は花形職種だった。現在は当時の勢いはないが、それでも人気職種だ。40代の男性カメラマンの生き方に焦点を当てつつ、それ以外の事例も紹介して考察したい。
『まいにち修造!』の撮影も担当
元プロテニス選手で、スポーツキャスター・タレントの松岡修造氏といえば、整ったルックスと熱い姿勢が人気だ。同氏を題材にして2014年に出版された『(日めくり)まいにち修造!』は発行部数100万部を突破するミリオンセラーとなり、続編として15年に発売された『(ひめくり)ほめくり、修造!』(ともにPHP研究所)もベストセラーとなった。松岡氏らしい爽やかなガッツポーズ姿の表紙をめくると、怒気迫る表情や脱力するような笑顔もあり、多様な写真も好評を博した。現在は毎年、年度版が発売されている。
これを撮影したのが、現在43歳の永井浩氏だ。被写体の表情を一瞬で切り取る人物写真に定評があり、政治家、経営者、芸能人から一般ビジネスパーソンまで幅広い撮影を手がける。前述の松岡氏の撮影は、どんな経緯で行ったのだろうか。
「長年、出版元のPHPの仕事をしてきたので、その流れで依頼がありました。『日めくり』は、言葉ごとにポーズが違うので、編集者がラフスケッチを描き、それを基に修造さんがポーズをとってくださいました」(永井氏)
さまざまな被写体と向き合う永井氏だが、撮影の際はテレビなどで活躍する著名人、政治家や財界人と一般の人で意識を変えるのだろうか。
「そういうことはしません。私は、人間はフラットだと思っており、撮影する相手がどんな方かという属性ではなく、人として接します。著名人でも、あまり先入観は持ちません。“イメージはダメージ”だと考えているので、自然体で臨むようにしています」(同)
筆者も永井氏と仕事をしたことがあるが、インタビュー時の人物撮影などでは、いつの間にか持ち場につき、淡々と撮影するタイプだ。被写体に次々に声をかけることもせず、「これまで一度も『笑ってください』と言ったことがない」(同氏)という。それでいて、何かの会話がきっかけで、撮影相手と話が弾んでいたりする。