結果、ポドクルノフ博士はアクセプト(査読承認)されていた2本目の論文を取り下げるしかなかった。さらに、ポドクルノフ博士は研究所からは除籍され、大学でも懲戒免職処分となったのである。
このように紹介すると、ポドクルノフ博士が気の毒にも思えるが、この騒動により、重力シールドは存在しないという風潮は高まった。つまり、ポドクルノフ博士らの実験結果は信用できるものではなかったと思われるに至ったのである。
それでも重力シールドには可能性がある?
だが、歴史を振り返ってみると、重力シールドは決して唐突に現れた奇説というわけではない。数学者、物理学者、天文学者で第25代首相をも務めたフランスのフランソワ・ジャン・ドミニク・アラゴー(1786-1853)は、1824年に回転磁気を発見している。具体的には、水平方向に回転する銅のディスク(円板)が垂直方向の磁場を受ける状態の時、磁針を回転軸(中心)の上に吊るすとその磁針は銅ディスクとともに回転し、磁針を固定した場合には銅ディスクの回転に遅れ(抵抗)が生じるというものである。
これは、ディスクの回転と磁場に関わるもので、関連性を見いだしうる。銅は極めて電気伝導性が高く、磁性(磁化率)の極めて低い反磁性体である。つまり、ポドクルノフ博士らが電磁石を用いて回転させた超伝導体(ディスク)の特徴に近いのである。
一般には、ポドクルノフ博士の主張する重力シールドを再現できた科学者はおらず、お騒がせの理論として忘れられつつあった。だが、決して大それた理論ではなく、発展の可能性が見込まれたためか、実は一流の研究機関によって検証されつつあることが判明している。
2002年7月29日のBBCニュースによると、ボーイング社はポドクルノフ博士の研究を真剣に受け止めていた。そして、自社の機密プロジェクトを手掛けるシアトルのファントム・ワークスにおいて、プロジェクトGRASPというコードネームで研究が進められることになったのである。ちなみに、ファントム・ワークスの長ジョージ・ミュルナー氏は軍事誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」に対して、その技術は妥当でもっともらしいと語っている。