かつて認可保育所の設置者は、市町村か社会福祉法人に限られていたが、00年3月に株式会社やNPOにも開放され、定員や資産の条件も緩められた。その後、市町村の財政難で公立保育園の民間委託が進み、政府は民間企業が設置した保育施設にも、公的補助を出す方針を示している。
今年4月には認可条件を市町村が自由に決めてよいことになり、受け入れる子どもの定員や職員配置、最低面積の基準を引き下げたり、園庭基準を廃止した市町村なら、ビル内の手狭なスペースで小規模保育所を開設するといったケースでも、認可が下りる。駅ナカ保育所に限らず、新規参入組にとっては「○○市認可」のお墨付きが取りやすくなったわけだ。
少子化もなんのその。保育は今や、「待機児童解消」という大義名分の下、国の政策の後押しを受けられる「稼げるビジネス」になっており、金融、建設、医療、人材派遣、学習塾など異業種からの参入が相次いでいる。立地条件で勝り、駅やその周辺に空きスペースを持つ鉄道各社が、「今こそビジネスチャンスだ」と目の色を変えるのも無理はない。
駅構内を「おさんぽ」されたら非常に心配
ある警備会社は、「駅の構内は、構造上、死角が多いんです。そのため、防犯カメラの設置台数も他の公共施設よりも多めです」と語るように、確かに柱や曲がり角が多く、案内板や広告などさまざまな設置物があって死角ができやすい。犯罪者にとっては好都合だろう。東京駅では大正から昭和の初めにかけて、政財界の大物を狙ったテロが繰り返し起きたが、犯人はみんな柱の陰の死角に潜んで要人を襲っている。現代には防犯カメラがあるが、過信は禁物だろう。
たとえば誘拐だったら、犯人が幼児をさらって階段を駆け上り、発車間際の電車に飛び乗って逃走されても防止策はない。通路が混雑していて人混みにまぎれたら、なおさらだ。
駅ナカ保育所のなかには、ホームページに改札機を興味深げに眺める幼児たちの写真を載せて、「駅をおさんぽ」とキャプションをつけているところがあるが、本当に駅構内を散歩しているとしたら非常に心配だ。不特定多数の人が出入りする場所は、それなりのリスクがある。また、電車好きの幼児が保育所を勝手に抜け出してホームに上がり、不慮の事故にあう不安もある。
大人同士の犯罪に巻き込まれる危険も、ないとはいえない。冒頭の渋谷駅殺人未遂事件は、午後6時15分頃に起きた。駅ナカ保育所ならちょうど、勤務先から帰る保護者が子どもを迎えに来る時間帯である。
犯罪や事故を心配したらキリがないが、もっと心配なことがある。それは防災で、建築基準法上も消防法上も、保育所への適用基準と鉄道駅への適用基準はまったく異なるのだ。
大地震で、基準が緩い駅舎倒壊の巻き添えに…
建築基準法では、保育所は「特殊建築物(児童福祉施設等)」に該当する。耐火建築物であるだけでなく、採光も、換気も、内装材の不燃性も建築基準法で定められ、細かい基準をクリアしなければならない。一方、鉄道駅は建築基準法第2条で、建築物から駅舎が除外されている。つまり基準自体が存在せず、駅舎が駅ビルになっている場合に限って、商業ビルと同じ扱いになる。
消防法では保育所は「特定防火対象物」に該当し、延床面積に応じて消火器、自動火災報知設備、屋内消火栓設備、スプリンクラーなどの設置が厳しく定められている。しかし、駅舎は「非特定防火対象物」で、特定防火対象物よりも防火設備の設置規定が緩くなっている。