――そんな我々の生活に欠かせない小売業には、どんな種類があるのでしょうか。
有馬 小売業は、業種と業態で分けられます。業種の場合は、食料品店、衣料品店、電気店、化粧品店のように取り扱う商品で分類します。一方、業態で分ける場合は販売方法によってカテゴライズすることができます。業態の種類と基本的な特徴をあげてみると、次の通りになります。
・百貨店=定価販売で接客が丁寧。品揃えが良い。包装サービスなどが充実。三越、伊勢丹、東武、西武など。
・専門店=基本は定価販売。特定の商品を専門的に販売。品揃えが深い。アフターサービスが充実。海外ブランド店、自動車のディーラーなど。
・スーパーマーケット=生鮮食品が中心。セルフセレクション方式。比較的安価。東急ストア、明治屋など。
・総合スーパー(GMS)=衣料品と生活雑貨にスーパーが付随。比較的安価。イトーヨーカドー、イオンなど。
・コンビニエンスストア=加工食品が中心。暮らしに必要な商品・サービスに絞って提供。セルフセレクションだが店員が袋詰めまで実施。セブンイレブン、ローソン、ファミリーマートなど。
・ディスカウントストア=アイテムを絞って低価格で販売。ドン・キホーテなどの総合的な店舗やドスパラなど専門的な店舗がある。
・ドラッグストア=医薬品、化粧品、加工食品、生活雑貨など。比較的安価。マツモトキヨシ、ココカラファインなど。
・EC=通信販売。Amazonなど。
・その他=ハイパーマーケット、ホームセンターなど。
苦戦のリアル店舗、その打開策は?
――大きく分けてもこれだけの業態があるのですね。このなかで好調な業態、また不調な業態はどれになりますか。
有馬 好調なのはEC事業でしょう。ここにきて不調なのはセブンイレブンをはじめとしたコンビニ業態ですね。これまで小売業界のなかでは調子が良かったはずですが、より安く、比較的遅くまで空いているドラッグストアやミニスーパーに顧客をとられてしまったことで流れが変わりました。百貨店業界も、三越や伊勢丹というこの業界では勝ち組と言われていた企業でさえリストラが断行されたり、店舗も相次いで閉店したりという現状です。さらに専門店も、消費者心理から多くの顧客を集めるには厳しい市場背景になっています。このように、ECの隆盛から全体的にリアル店舗、特に定価で販売する業態が苦境に立たされています。
――では、リアル店舗は今後どのような対策を打ち出せばいいのでしょうか。
有馬 時代的に“地域密着”の方針が打開策となり得ます。若いうちは人とのコミュニケーションよりも利便性を重視してECで買い物を済ますことが多い時代ですが、ある世代以上になると、小売店に人的接点を求めるようになります。そのニーズに応えるように、商品の定期配送をしたり、冠婚葬祭の相談を聞いたり、小売業が顧客の日常を見守る、いわゆる御用聞きのようなサービスを行うことで、極端な値引きをしなくても顧客を掴めることにつながるのではないでしょうか。こうした取り組みによる成功事例が郊外の電気店や地方のスーパーなどで表れ始めています。高齢社会において、小売業がコミュニケーションの場を提供することは、中長期的にみると重要だと思います。
――ありがとうございました。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)