富士フイルムHDには米ゼロックスの買収は吉と出るのか凶か
富士フイルムHDが富士ゼロックスの経営の抜本的見直しを迫られていたのは確かだ。親会社の富士フイルムHDは、17年6月22日に開催した富士ゼロックスの株主総会で、架空売上の責任を取らせ、山本忠人会長ら取締役4人を解任、栗原博社長は続投した。富士フイルムHDの古森会長が富士ゼロックス会長を兼務し、富士フイルムHDから合計7人の役員を派遣。富士フイルムHDの助野健児社長は「富士ゼロックスへのガバナンス(企業統治)を強化する」と述べ、親会社主導で体制を刷新する考えを示した。
富士ゼロックスが手掛ける複合機やプリンターなどの事業部門は、富士フイルムHDの大黒柱である。富士フイルムHDの事業は、大きく3つの部門に分かれる。複合機をはじめとする事務機で構成する「ドキュメント事業」、インスタントカメラなどの「イメージング事業」、液晶パネル向け素材や医薬品などが含まれる「インフォメーション事業」。これまでの稼ぎ頭は、富士ゼロックスが大部分を占めるドキュメント事業だった。
米ゼロックスの買収には大きなリスクが伴う。富士フイルムHDと米ゼロックスの16年度の売上は単純合算すると3.3兆円に達する。そのうちコピー機や複合機など印刷機の販売が3分の2を占める。新興国市場では需要は伸びているが、先進国ではペーパーレス化が進み、米ゼロックスが得意とする保守などサービス事業が伸び悩んできた。業績低迷が続く米ゼロックスを子会社にするというリスクに直面することになるからだ。
新生ゼロックスの会長に古森氏が就任するが、CEOは現米ゼロックスCEOのジェフ・ジェイコブソン氏が続投する。アイカーン氏が「守旧派」と指弾したジェイコブソン氏が留任するわけだ。古森会長は主力の写真フィルムの急減という危機に際して、液晶ディスプレイ材料や医薬品などにシフトする構造改革を断行し、成功を収めてきた。これは、はっきり言って複写機・複合機への依存から脱却する戦略である。しかし、米ゼロックスの買収で複合機の比重が3分の2に高まってしまう。成長路線とは真逆の選択をしたことにならないのか。米ゼロックスの買収は成長戦略の足枷になる可能性がある。
富士フイルムHDの足元の業績も厳しさを増している。18年3月期の連結売上高は2兆4600億円を据え置いたものの、営業利益は前期比24.5%減の1300億円となる。当初予想1850億円から550億円も目減りする。富士ゼロックスの構造改革に伴う費用の増加が重荷となる。
富士ゼロックスで稼いできたドキュメント事業の営業利益は前期比で8割近く落ち込み190億円になる見通しだ。当初、ドキュメント事業の営業利益は740億円としていたのだから、550億円のマイナス。これが富士フイルムHDの業績の足を引っ張っている。
1月31日の記者会見で古森会長は、米ゼロックスの買収により「(会長兼CEOの)任期は、また少し伸びそうだ」と長期政権を示唆し、「統合の要にならないといけない」と自身の役割を語った。米国の名門だが、斜陽の企業を巨費を投じて買収して、短期間で結果を出せるのか。安倍晋三首相の経済ブレーンである大物財界人の古森会長が下した海外大型M&Aの決断は、果たして吉と出るのか。それとも凶か。
1月31日、東京株式市場に米ゼロックス買収の情報が流れると、富士フイルムHDの株価は取引終了間際に急落した。2月1日は一転して一時、604円高の4794円をつけたが、昨年来高値(4838円)よりは安い。
「物言う株主」対策か? 25億ドルの特別配当
米ゼロックスは資本構成の変更(富士フイルムHDの子会社になること)に伴い、米ゼロックスの株主に25億ドルの特別配当を実施する。米ゼロックスはニューヨーク証券取引所の上場を維持し、社名を富士ゼロックスに変更する。取締役12人のうち7人を富士フイルムHDが指名する。
米ゼロックスの時価総額は9000億円程度。2014年秋から5割弱減少した。カール・アイカーン氏らが、25億ドルの特別配当で現経営陣批判の矛を収めるのか。
「米ゼロックスの第三者割当増資の株価が正当なのかどうかについて異議の申し立てがあるかもしれない」(外資系証券会社のアナリスト)
(文=編集部)