「ものづくりのソニー」復活までの遠い道のり
「平井改革」によって業績は立て直したが、その代償は大きかった。ソニーの原点といえる「ものづくり」を放棄したことによって復興が達成されたという、アナリストの厳しい指摘もある。
いわば、外国製品を安く買って「ソニー」というブランドのワッペンを貼って商売するような会社になった。これは、かつて米国の電機メーカーが絶滅前の最後の最後にとった手法と同じだ。
「メーカーとしての土台となるものづくりでは、部品メーカーになるということです。もっとも稼いでいるのはスマートフォン用のカメラ。部品というのは、客の要望を聞いてつくっていくので、クリエイティブではありません。むしろ、納入先の希望価格などコスト計算がシビアになるので、まさに“財務の仕事”なんです」(外資系証券会社のアナリスト)
ただ、アナリストたちにとって、57歳の平井氏退任は想定外だったようだ。60歳を迎える次期中期計画達成時点で退任するとみられていたからだ。しかも、1歳上の吉田氏へのバトンタッチだ。「平井氏が最高業績の今年退任するのは、今後の業績の伸びが想定できないから」(別の証券アナリスト)といった見方もある。
スマホ用カメラの先行きは安泰ではない。儲かる分野は、中国メーカーが虎視眈々と進出を狙っている。8K画質のカメラを中国メーカーも出している。ソニーの「これからさらに儲ける」との現経営陣の読みは甘いといわざるを得ない。
「ソニーブランドを牽引する製品、サービスが見当たらない。かつての『ウォークマン』やアップルの『iPhone』のような大ヒット商品がない。アマゾンや世界最大の会員数を誇る動画配信サービスのネットフリックスのようなコンテンツサービスに強いというイメージも醸成されていない。管理畑の吉田氏は、経営のカジ取りは難しいだろう」(ライバルのエレクトロニクスメーカー首脳)
そもそも、吉田氏は「次にバトンを渡すつなぎ役」(ソニーの元役員)とみられているのだ。
「今回の人事で、十時氏のCFO就任や、石塚氏がモバイル担当を兼務することから、ソニーは今後、モバイルを主軸とすることをやめる可能性が見えてくる」(同)