確かに、30分待って行き先が近場ではため息をつきたくなるのもわかるが、長距離でも近距離でも大切な乗客に変わりはなく、ほとんどの運転手は「仕方ない」と割り切る。しかし、なかには悪態をついてしまう運転手もいるのだ。
「そんな運転手は、すぐクビになるのでは?」と思うかもしれないが、それは地域や会社の体制によるところが大きい。東京都内の場合は、泣く子も黙る「東京タクシーセンター」(タクシー会社を指導する立場の業界団体)に苦情が入ると、クビになったり乗務停止などの罰則を受けたりする可能性が高い。さらに、2年後に東京オリンピックを控えていることもあり、都内のタクシー会社の多くは運転手に接客マナーを厳しく指導している。いずれにせよ、日本交通のような大手であれば確実にクビになる行為だ。
しかし、筆者が勤務しているような地方の中小の場合は事情が違ってくる。なかには、売り上げよりも「稼働率」を重視する会社もあるからだ。これは、なるべく多くのタクシーを動かして乗客をつかまえるというもので、そのためには多くの運転手が必要となる。必然的に、問題の多い運転手であっても交通事故や刑事事件でも起こさない限りは雇用し続けることになる(そんな運転手に限ってコワモテだったりもする)。
さらに、地方の場合は東京タクシーセンターのような組織もあまり機能していないことが多い。また、ただでさえタクシー業界は慢性的な運転手不足に悩まされており、新人がすぐに辞めてしまうケースもザラにある。運転手の募集広告が常に掲載されているのは、そのためだ。
普通二種免許さえ取得すれば誰でもなれるというのも、タクシー運転手の特徴だ。そのため、ある意味「社会の受け皿」となっている面も否めないのである。
好みの女性客をひたすら口説く、恐怖の運転手
筆者が勤務する会社にも、「苦情の常連ドライバー」がいる。彼が、好みの女性を乗せたときのことだ。
「暇でしょ。家でお茶でも飲ませてよ。付き合ってる男いるの? いなければ遊ぼうよ。いいじゃない、俺は上手いよ」などと相手の感情を無視して口説き続け、挙げ句の果てには「俺と遊ぼうよ、エッチ好きでしょ?」とまで言ったという。
見知らぬ男にそんなことを言われた女性客の恐怖は計り知れない。彼女は家を知られるのが怖くなり、家の手前のコンビニエンスストアで降りて買い物を済ませ、そのタクシーが走り去ったことを確認してから帰宅したそうだ。