ただ、今回は徴収を容認する裁定と同時に、判決が確定するまでは契約手続の督促をしないよう行政指導がされている。つまり現状としては、著作権料の徴収のための契約手続は行っているが、現時点で契約するかしないかは事業者ごとの判断に委ねられているのである。
仮に今後裁判でJASRAC側が勝訴し、音楽教室は著作権料を支払わなければならなくなった場合、音楽教室の運営形態、および受講者側にどのような影響があると考えられるだろうか。音楽教育を守る会に話を聞いた。
使用料算定は困難
今回の文化庁長官による裁定やJASRACの発表に対し、音楽教育を守る会は「『司法判断確定まで使用料規程の実施を留保してほしい』という要望が通らなかったことは残念です」と述べている。
「徴収の督促はしないようにとの行政指導がされていますが、JASRACは手続案内を繰り返し送付すると明言しており、それが督促にあたらないのかどうか疑問です。また、徴収する際も楽曲の利用実態を踏まえ、適切な使用料の額にするようにという行政指導が行われているのですが、音楽教室での演奏の、どの部分について演奏権が及ぶのか、司法判断で明らかにされてない現時点では適正な使用料の算定は困難でしょう。社会的混乱の回避という観点からいえば、仮に音楽教室側が敗訴した場合、遡及請求されることになるとしても、司法判断の確定までは使用料徴収は行わないよう、もう一歩踏み込んだ行政指導をしていただきたかったです」(音楽を守る会 事務局担当者)
今回のJASRACの方針に対し、多くの方々が反対の意を示しているという。
「この問題が報じられて以来、多くの権利者、一般市民の皆様が反対の意思を表明しており、昨年行った署名活動ではわずか3カ月間で56万筆の署名が集まりました。これは、音楽や楽器演奏を習いたいという生徒が、閉鎖的な教室で、誰かに披露するわけでもなく、練習のために行っている演奏について、なぜ対価が発生するのかという素朴な疑問を、多くの皆様が抱いているからだと考えています。
また、JASRAC側は『楽器を売るための教室だ』『営利目的で行っているのだから1円も権利者に還元しないのはおかしい』という主張。ですが、我々はテキストや楽譜における著作権使用料や、発表会や演奏会などでの演奏の著作権料はきちんと支払っているのです。そのことに言及されていないことも残念に感じます」(同)