社長の首を切り、創業家・会長の責任は不問か
スルガ銀行は、地銀のなかでは数が極めて少なくなった同族経営の銀行だ。岡野一族の同族経営で、現在は5代目の岡野光喜氏が会長兼CEO(最高経営責任者)として君臨している。同氏が社長から会長になり、非同族の米山明光社長が誕生したのは2016年6月のことだ。
昨年5月、金融庁の森信親長官が講演で、「地銀の(新しい)ビジネスモデル」として、カードローンや住宅ローンなど個人向け商品に特化したスルガ銀行の積極的な経営姿勢を高く評価した。とはいえ、「地銀の消費者金融シフト」と他の有力地銀の頭取から揶揄されるゆえんともなった。
かぼちゃの馬車のオーナーに、高利のフリーローンを貸し付けて収益を上げてきたのは、「岡野路線の一断面」(スルガ銀行関係者)との厳しい指摘もある。
スルガ銀行は18年3月期決算予想で、融資など本業で得るコア業務純益を650億円としている。規模では地銀中20位以下だが、収益力は地銀トップクラスだ。ところが、収益の柱であるフリーローンでつまずいた。「今年3月期決算は業績の大幅な下方修正が避けられない」と金融アナリストは見ている。
昨年の大納会(12月29日)で2417円をつけていた株価は、事件の発覚後、下落の一途を辿る。4月3日には1431円と年初来安値を更新した。4割強の値下がりである。
「スルガ銀行は、同族経営で決断が早く、大胆な行動が取れるという特性をうまく生かして、高い収益を上げてきた。森長官自身が“地銀の優等生”とのお墨付きを与えた銀行であるため、金融庁としては組織ぐるみの問題にしたくないとの思惑がある」(前出の金融アナリスト)
企業向け融資を極力抑え個人ローンに特化するなど、他の地銀の“サラリーマン頭取”では、とうていマネのできないハイリスク・ハイリターン経営を実行してきた。そのビジネスモデルが落とし穴にはまったかたちだ。
「今後、経営責任をどう取るかが問われる。金融庁も株主も、岡野氏には残ってほしいと考えている。米山氏に責任を取らせ、会長はCEOを外れて残る、というシナリオになるのではないか」(同)
創業者は岡野喜太郎氏。3代目頭取の岡野喜一郎氏の時に飛躍した。岡野光喜氏は、1985年に父・喜一郎氏の指名を受けて、創業90周年の節目に40歳の若さで5代目頭取となった。頭取から社長と呼び方を変えたのは、「『普通の会社は社長なのに、どうして銀行だけ違うの?』と子供に聞かれても返答に困る。銀行はサービス業なのだから社長でいい」と即決した。社長になった光喜氏は2016年まで、実に31年間、社長の椅子に座り続けてきた。
米山氏は明治大学工学部卒で、17人抜きの大抜擢で社長になったばかりだ。「ICT(情報通信技術)に詳しいということで白羽の矢が立った」(スルガ銀行の元幹部)といわれるが、“傀儡社長”との低い評価しかない。
自己破産は避けられないとされる、かぼちゃの馬車のオーナーたちは、スルガ銀行で“岡野商店”が続くことを許さないのではないだろうか。
静岡県は静岡銀行、スルガ銀行、清水銀行と、3つも地銀がある“オーバーバンキング地帯”だ。かぼちゃの馬車事件の余波を受けて、中部地区の地銀・第二地銀の再編の起爆剤になる可能性もある。
(文=編集部)