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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

衆議院議員の非常識な対応に呆れ返った…国会議員に半導体政策立案を行う資格なし

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
衆議院議員の非常識な対応に呆れ返った…国会議員に半導体政策立案を行う資格なしの画像1
「Getty Images」より

衆議院への参考人招致

 最近、永田町界隈が、「半導体、半導体、半導体」と騒がしい。日米首脳会談を行った菅義偉首相が米国のバイデン政権と協力して半導体のサプライチェーンを強化する方針を打ち出し、経済産業省が台湾TSMCへ国内誘致を働きかけ(筆者はTSMCは来ないと確信しているが)、自民党には甘利明元経産相を会長とし、安倍晋三元首相と麻生太郎財務大臣を最高顧問とする「半導体戦略推進議員連盟」なるものが立ち上げられた。

 この半導体議連については、あちこちの記事で「安倍・麻生・甘利」の3人の頭文字をとって、「A・A・A(トリプルエーとかスリーエー)」などと報じられている。これを見た時、「何かの悪い冗談」ではないかと思った。それほど、この3人と半導体は結びつかないのである。そして、この半導体議連の政策は、あまりにも荒唐無稽であることを記事にした

 そして、筆者は6月1日、衆議院の「科学技術・イノベーション推進特別委員会」に、半導体の専門家として参考人招致され、意見陳述を行うことになった。筆者以外にも、理化学研究所の理事、一橋大学名誉教授が招致され、筆者を含めて3人が、それぞれ15分の意見陳述を行った。

 そのテーマを簡単に言うと、「日本半導体産業の過去を振り返り、反省・分析し、未来の政策を考える」というものである。この内容を、半導体の「は」の字も知らないであろう衆議院議員たちに、どう説明したら良いか悶絶する日々を送った。

 筆者の本来の仕事を中断し、この意見陳述用資料作成に10日以上を費やし、知恵を絞り、エネルギーを集中させ、15枚のパワーポイントを作成した。その意見陳述の様子がYouTubeで公開されている。ぜひ一度、視聴してみてください

 本稿では、その後日談をお話ししたい。筆者の意見陳述は、委員会に参加していた衆議院議員たちに大きな衝撃を与えたらしい。その結果、何が起きたかを詳細に説明したい。その上で、このような衆議院議員たちには半導体政策を立案する資格はないことを断じる。

衆議院の2回戦目の招致要請

 衆議院の委員会で意見陳述を行った6月1日(火)から1週間たった6月7日(月)の午後、その委員会に参加していた山岡達丸衆議院議員から、『国会議員・勉強会の講師の依頼について』というタイトルのメールが来た。そのメールから、一部抜粋して以下に示す。

「先日、衆議院の科学技術イノベーション特別委員会(科技特)で、立憲民主会派を代表し、湯之上さんに質疑をさせていただいた者です。先日の委員会の後、科技特の田嶋要委員長と話をする中で『湯之上参考人のお話はとても興味深い。一度、湯之上さんだけをお招きして、立憲民主党と国民民主党の議員の有志の集まりのもとで勉強会を開催したい』ということになりました」

「尚、勝手ながら、6月16日に今国会は終了(現政権は延長を拒んでいるため)する見込みです。国会が終わると議員たちは集まりにくくなる関係で、6月11日、14日、15日あたりの日程で議員会館(国会の隣になります)での開催を念頭に動いております。これらの日程も勘案の上で、是非、前向きにご検討を願いたく、お願い申し上げます」

 山岡議員が自ら書いているように、「国会の閉会までに勉強会をやりたい」というのは、身勝手極まりない言い分である。この時点で、何をどの程度話すかわかっていなかったが、筆者にとっては、あまりにもタイトなスケジュールであり、12日(土)と13日(日)の2日間を、勉強会の資料作りの準備に充てるしかないだろうと覚悟せざるを得なかった。

 ただでさえ本来行うべき仕事を一旦棚上げし、衆議院の意見陳述の準備に膨大なエネルギーを費やしただけに、暗澹たる気分になってきていた。

筆者からの要望

 それでも最善を尽くそうと考えた筆者は、山岡議員に6月7日、以下を要望するメールを出した。

1)どのような内容をご希望なのでしょうか? 半導体と言っても、様々なテーマがあります。議員の皆様が何にご関心があるか、お知らせ願えないでしょうか?

2)勉強会の時間はどのくらいを想定されていますでしょうか?(前回のように15分だと、表面的なことしか述べられないと思います)

3)この勉強会は、前回の衆議院の委員会のように、リアルに会議室で行うのでしょうか? コロナ禍でもあるので、私としては、リモートが望ましいのですが、いかがでしょうか?

4)頂いた日程では、6月14日(月)か15日(火)が望ましいのですが、朝に弱いので、午後以降でお願いできないでしょうか? 因みに前回の衆議院の委員会は、朝早くて、私にとってはつらいので、前泊しました。

山岡議員からの返答

 翌6月8日(火)、山岡議員からメールがあり、筆者の3番目の要望については、

「大会場のプロジェクターを設けてカメラとマイクを用意し、双方向で質疑応答を行うという機材を6月15日までに揃えることが難しいということが分かり、完全オンライン形式にするか、開催を先送りするかという点で、明日、企画の発起人で協議を行うことになっています」

ということになった。また、2番目の勉強会の時間については、

「ご講演は、例えば45分程度+質疑応答でトータル1時間+α(最大で1時間半)という時間を念頭においております。湯之上さんのお話を聞くには、これでは短いかと思いますが、何卒、ご理解を賜れれば幸いです」

と書かれていた。テーマにもよるけれど、45分の持ち時間というのは中途半端で、短すぎると思う。たった45分で、何を勉強したいというのだろうか。筆者には、国会議員が何を考えているか、さっぱりわからなくなってきていた。本当に、半導体を勉強したいと思っているのだろうか。

衆議院の勉強会は6月9日(水)に開催決定

 そして、6月9日(水)に、山岡議員から以下の内容のメールが届いた。

「お待たせして大変申し訳ありません。議員の発起人会での話がまとまりました。あらためて、湯之上さんに講演の依頼をお願いをさせていただきます。日時は15日17時から(冒頭に呼びかけ人代表の挨拶等があり、17時10分までには講演を開始します)」

と書かれている。そして、これはリモートではなく、リアルな会議であり、議員会館というところまで足を運ぶように要請された。

 しかし、東京都は緊急事態宣言下にある。東京都の小池百合子都知事は、「県境を越えて移動しないでください」と連日のように警告している。また、筆者の自宅がある埼玉県でも、大野元裕県知事が移動の自粛を要請している。そして、政府が民間企業に「極力在宅勤務、極力リモート」を推奨している。

 にもかかわらず、なぜ国会がリアルな会議にこだわるのか。リアルが好きなのか、リモートが無理なのか(一つ前のメールに技術的に難しいと書かれている)、その両方なのか。

 この衆議院の勉強会にどのくらい人が集まるかは知らないが、民間企業では数十人でも数百人でも、普通にリモート会議や講演会を行っている。その普通のことが、なぜ国会ではできないのか。本来ならリモートを推奨している国会議員が、その範を示すべきではないのか。筆者のなかでは、国会議員に対して不信感が募り始めていた。

筆者から山岡議員への要望

 勉強会の日程と形式は決まったが、そのテーマについては依然として不明である。何度か電話したり、メールで尋ねても、「前回の意見陳述と同じようなお話をしてください」というだけで、一向に埒が明かない。

 例えば、前回の15分の意見陳述を、少し肉付けし、さらに現在は半導体不足が深刻で、このままいくとトヨタ自動車など日本の基幹産業である自動車産業が壊滅するかもしれない、というようなことを言えばいいのだろうかと思い始めていた。

 しかし、それでも45分というのは実に中途半端な時間であり、勉強会の時間としては短すぎる。トランジスタ、微細化、ムーアの法則など、半導体集積回路の基本的なことすら解説する時間を取ることはできないだろう。

 そこで、頭に一つのアイデアがひらめいた。45分の持ち時間では、表面的なことしか述べられない。それならば、筆者の本を購入していただいて、国会が閉会になった6月16日以降に各議員が勉強できるように誘導すればいいのではないか。

 幸い、2012年に出版した『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社、1500円+消費税)が20~30冊ほど、筆者の書斎の押し入れの中に眠っている(図1)。これを送付し、議員のポケットマネーで購入して勉強していただき、半導体の政策立案に役立てていただければと思ったのである。9年前の古い本であるが、改めて読み返してみると、自分で言うのも何であるが、面白く、今でも役に立ちそうである。

衆議院議員の非常識な対応に呆れ返った…国会議員に半導体政策立案を行う資格なしの画像2

 そこで、6月10日のお昼ごろ、山岡議員に電話して、「拙著を各議員にポケットマネーで買っていただいて、閉会後に読んで勉強してもらって、半導体の政策立案の参考にしていただきたい」と連絡したところ、山岡議員は拒絶的な反応を示した。山岡議員には「勉強会の前に読んでくださいというのではなく、あくまで各議員がポケットマネーで買ってもらって、閉会後に勉強してほしいのです」ということを繰り返したが、否定的な態度は変わらなかった。そのため、山岡議員には「委員長に伝えて検討してください」と申し出た。

勉強会中止の連絡

 筆者の提案は、悲劇的な結果となった。上記提案を行った同日の午後15時42分、山岡議員から、以下が書かれたメールが送られてきた。

「今回の企画は私一人で進めているのではなく、議員有志で行っていることもあって、あらたな支出が必要な場合は全員に同意を取る手続きに時間を要します。そして期日が迫っている中で、これ以上、お待たせるのはご迷惑になりますので、15日の開催は現段階で見送りといたします」

 こちらは、税抜きで1500円(税込みで1650円)の拙著をポケットマネーで買ってほしいと言っているにもかかわらず、彼ら国会議員は自腹を切ろうとせず、なんらかの予算を使おうとしていると思われる。その予算の出どころは、税金である。そして、その算段が付かないから今回の勉強会は見送りとなったわけである。驚きを通り越して、呆れかえるしかない。

 当初、国会が閉会になる6月16日までに勉強会を行いたいから、国会まで足を運べと命じ、45分では満足な勉強会ができると思えないので、それを補足する意味で、ポケットマネーで拙著を購入していただいて国会閉会後に勉強してくださいと要望した途端に、中止を言い渡されたわけである。

 自分たちを何様だと思っているのだろうか。国会議員に来いと言われれば、誰でも尻尾を振って喜んでくると思っているのだろうか。ちなみに個人事業主の筆者は、今回の意見陳述や勉強会の準備をほとんど手弁当でやっている。高年俸が保証され、その年俸以上の経費を使うことができ、公共交通機関をただ乗りできる議員パスを持っている国会議員とは、わけが違う。通常、企業で講演したら講演料として1回数十万円をいただくのに、国会での意見陳述はほとんどタダ働きとなる。

衆議院議員に半導体政策を立案する資格なし

 6月1日の衆議院の意見陳述に端を発した一連の騒動で筆者が感じたことは、次の通りである。

 最近、永田町界隈で「半導体、半導体、半導体」と騒いでいるのは、一過性のブームにすぎない。東京五輪が開催されるかどうかはわからないが、その前後に行われる衆議院の解散総選挙後に、菅内閣が一掃され、新たな内閣が組閣され、各委員会もいったんターミネートされたら、「半導体? あーそういうこともあったね?」ということになるのではないか。

 今は、米国のバイデン政権を模倣して「半導体は重要だ」などと大合唱しているが、来年の今頃には、このブームは消滅し、また別の話題で持ち切りとなっているのではないか。

 そして、1500円(税抜)の拙著をポケットマネーで買うことすら拒んだ衆議院議員たちに、一言いいたい。

「自分たちがリモート会議をできないくせに、国民にリモートを推奨したりするな」

「1500円程度の本を自腹で買えないような議員は、半導体の政策立案なんかに関わるな」

 はっきり言って、迷惑である。そして、6月1日の意見陳述で明言した通り、政府や経産省が関わって成功した半導体の政策は一つもない。もっとも有効な政策は、政府や経産省が「何もしないこと」である。余計なことをしないでいただきたい。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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●湯之上隆/微細加工研究所所長

湯之上隆/微細加工研究所所長

湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。


・公式HPは 微細加工研究所

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