NY株式市場のゼロックスの株価(7日の終値は28.46ドル)の1.4倍だ。「すべて現金で最低でも1株40ドルの値付けならば真剣に検討する」としている。すべて現金というところがアイカーン氏らの主張の根幹だ。米投資会社がゼロックスの買収に関心を示しているとの現地からの報道もある。もし米ゼロックスの入札が行われるとするなら、この「1株当たり40ドル」が入札の目安になるかもしれない。
ボス交には当初から不透明感が漂う
米ウォール・ストリートジャーナルは、「米ゼロックスのジェフ・ジェイコブソン最高経営責任者(CEO)が、取締役会で反対意見があったにもかかわらず、買収交渉を進めた」と報じていた。「(一度は退任が決まったが、一転して留任した)ジェイコブソン氏が保身を目的に売却先を富士フイルムHDに決定し、他社の買収提案を受け入れにくくした」と現地では伝わっていた。
裁判所の判事は、ジェイコブソン氏が「自らの地位を守るため、株主の利益を犠牲にして富士フイルムHDとの交渉をまとめた」と認めた。「取締役会の監視体制に不備があった」と指摘し、ジェイコブソン氏ら経営陣の主張は「信用できない」と、かなり踏み込んだ。つまり、仮処分を決定した裁判所は、買収を受け入れたゼロックス側の判断に問題があったと認定したことになる。
そもそも、前述のとおり、この買収のスキームは富士フイルムの古森会長と、来日したジェイコブソン氏が、二人三脚で練り上げたものといわれている。再編のキーマンだったジェイコブソン氏が米ゼロックスを去ったため、このディール(取引)は有名無実となった。アイカーン氏らは株主への書簡で「ジェイコブソンCEOが辞任の見返りに多額の退職金を要求した」ことを明らかにした。ジェイコブソン氏を含む今回退任した取締役の退職金にも、今後、関心が集まるだろう。
富士フイルムHDは戦略を根本的に見直し
富士フイルムHDは18年秋にも買収を完了するとしていた。しかし、裁判所の判断やゼロックスの統合の見直し→大株主との電撃的な和解→和解の失効→買収計画の白紙撤回と進み、買収推進派の役員が総退陣したことで、富士フイルム側は苦しい立場に追い込まれた。
富士フイルムHDは買収の一時差し止め命令に対しても5月4日、不服として上訴した。ゼロックスも同日上訴し、歩調を合わせた。ゼロックスが法廷闘争する必然性がなくなった。富士フイルムHD側には「ゼロックスの新経営陣が一方的に契約を履行しない場合は、損害賠償請求を考える」との強硬論もある。とはいえ、「法廷闘争に移っても、富士フイルムHD側が勝てる可能性は低い」(前出弁護士)といった悲観的な意見もある。
買収が1年以上遅れれば、海外戦略の見直しは避けられないとされていたが、白紙撤回となればゼロから再検討するしかない。
今後、富士フイルムHDの株主からも批判や懸念の声が出てくる可能性は高い。富士フイルムHDの5月18日午後3時からの決算発表や6月末の株主総会にも関心が集まる。
富士フイルムHDの“ドン”と呼ばれる古森氏は、買収計画にまつわる混沌・混乱についてどう説明するのか。古森氏とジェイコブソン氏の個人的な関係だけに頼った買収計画の是非が、株主総会で問われることになる。
5月2日の東京株式市場で富士フイルムHDの株価は、買収の失敗を嫌気して5%超(270円)安の4091円まで急落。連休明けの5月7日には一時、4061円まで下げ、年初来安値(3月26日の4075円)を下回った。株価の下落が続けば、富士フイルムHDの株主のフラストレーションはさらに高まることが予想される。
(文=編集部)