歴史ある巨大ホテル、ホテルニューオータニの運営の裏側と、優秀なホテルマンの条件

●さまざまな道のプロが集まるホテル

–営業部門から、現在就かれている広報部門に移られたきっかけはなんでしょうか？

今井　とにかく営業が長かったので、キャリアアップのために営業以外の仕事も経験したいと思っていました。特に広報の仕事というのは格好いいというイメージもあったので（笑）、早い時期から会社には「広報をやりたい」と言い続けていました。そうした時に、当時の広報マネジャーがそのポジションですでに10年目を迎え、キャリアアップのためにそろそろ別の部署への異動の動きがあったのに加え、元の部署の上司が当時広報部門であるマネージメントサービス部の部長だったこともあり、声をかけてもらえました。

–広報ではどういう仕事をされているのですか？

今井　広報の仕事には、PRと広告があります。広告というのは、お金を払って広告を出稿するのが仕事です。一方、私が担当しているPRは、新企画や新商品などに関する情報をメディアの方々にどんどん発信し続け、興味を持ってもらい、それに関する記事をメディアに掲載してもらうというものです。さらに、例えばバーテンダー日本一、ソムリエ世界大会の出場経験者、氷彫刻の世界チャンピオン、あるいはブライダルコーディネーター、コンシェルジュなど、ホテルニューオータニで働く特殊技能を持ったスタッフをメディア側が取材したいという場合の対応なども私たちの仕事です。現在は3人のスタッフでこれらの仕事を担当し、毎月のパブリシティーの件数は、小さい記事も含めると、約100件以上あります。

–掲載先のメディアというのは、どのように決まるのでしょうか？

今井　取り上げていただくテーマによって、TV、インターネット、雑誌、新聞などさまざまですね。例えば情報誌や女性誌などはレストランやスイーツフェアなどの情報が中心ですが、経済関係の雑誌や新聞の場合は、ホテルニューオータニの経営状況に関する質問を受ける場合が多いですね。景気判断の裏付けデータとして、ホテルの稼働状況についての質問を受ける場合などもあります。

–ホテル広報の魅力はなんでしょうか？

今井　魅力はたくさんありますよ。私にとって最大の魅力は、ホテル中のおいしいものを最初に食べられるところでしょうか（笑）。普段は従業員食堂で食事をしていますが、新商品が出た時には、やはり味見をしておかないと伝えられませんからね。

　それ以外には、先ほどお話ししたようなその道のプロと呼ばれる方々とじかに接することができて、その方々の考え方を直接聞けることが魅力ですね。彼らのメディアの取材の時に、隣で話を聞いていると心から感動します。いろいろなメディアの方、外部の方とお話しできるのも魅力ですが、プロの技を知ることができるのは大きな魅力ですね。

●VIPへの特別な対応とは？

–今までのキャリアの中で、印象に残っている経験を教えてください。

今井　ホテルニューオータニは東京サミットやアフリカ開発会議の会場などとして利用していただいたこともありますが、そういうような場合には外国の要人など、多くのVIPが宿泊されます。その一人ひとりに対して、バトラーのような役割を担う“接伴員”が付き、その要人が朝お目覚めになってから夜お休みになるまで、ホテルにいる間は客室の中以外では常にご一緒し、例えば彼らが朝食を召し上がりに行く、あるいは会議場に行く、外出される時などにご案内します。そうした要人は分刻みでスケジュールが決まっているので、そのスケジュール通りに次の会場へとスムーズに移動できるようにするのも“接伴員”の仕事です。

　私が宿泊営業時代に、ベルギーの皇太子が来日され、ホテルニューオータニに宿泊された時に、営業担当として接伴員を任されました。皇太子の近くには絶えずSPの方がいるので、そのSPの方々と連絡を取りながら、皇太子がお休みになるまで部屋の近くに待機しているわけです。そして、例えば朝食のメニューや時間を確認し、翌朝はそれが間違いなくお部屋に届けられているかなどを確認します。皇族の方々の生活に直接関わることができ、とても印象に残っています。