昨年10月、ヤマトが27年ぶりに宅急便料金を引き上げたことは、組織全体の消耗を防ぐためだったといえる。同時に、社会の変化に対応してビジネスの内容を検討し、持続性の高いサービスを提供するためにも、単価の引き上げは不可避であり不可欠だった。
物流業界は最も重要な成長産業である
もう一つ、ヤマトの経営陣の単価引き上げを英断と評価する理由がある。それは、物流というビジネスが今後の発展に不可欠であることを、社会に示したことだろう。
当たり前の話ではあるが、多くの人が躊躇することなく「欲しい!」と思ってしまうモノやサービスがあれば、供給価格を引き上げることへの抵抗感は少ないはずだ。それを手に入れたいという欲求が、価格の上昇に対する抵抗感を上回るということである。
第3四半期のヤマトの決算を見ると、この構図がはっきりと表れている。単価の引き上げにもかかわらず、同社は増収増益を達成した。今後も同社が需要を集め成長を維持するとの見方も多い。
年初来、国内の株式市場が円高などを受けて軟調に推移する一方、ヤマトの株価は23%程度上昇している。これは、ネット社会の深化とともに物流への需要が高まり、生産性の引き上げにコミットする企業の成長が高まるとの見方を反映している。マーケットは、ヤマトを成長企業として認識しているといえる。もし単価の引き上げが見送られていたのであれば、市場参加者の見方が上向くことはなかったかもしれない。同時に、ヤマトの料金引き上げは、アマゾンなどのプラットフォーマー企業に対して物流業界の価格交渉力があることを示す機会にもなった。
言い換えれば、物流なくしてネット社会の発展はありえないということだ。アマゾンが目指すものは物流革命と考えられる。ネット上でモノの購入契約を締結し、代金を決済することはできる。しかし、それだけではモノを必要な場所に届け、実際に使うことはできない。ネット社会の発展は物流ネットワークの強化と不可分だ。それがわかっているから、アマゾンはヤマトの値上げを受けて自前での宅配サービスを強化している。
このように考えると、ヤマトが単価の引き上げに続きどのような経営の革新、イノベーションを進めるのか、目が離せない。さまざまな問題はあるが、同社がドロップボックスの設置だけでなく、自動運転車両やドローンを用いた物流テクノロジーの開発を加速させるのであれば、業界他社にもかなりの影響があるだろう。