「依頼を受けたら、絶対に『できない』とは言わない」――。
このようなモットーを掲げたのは、三ツ矢の先代社長の草間英一氏で、現社長の誠一郎氏の父親である。
「忙しいときに限って新しい話がくるんですね。でも、逆にヒマになって仕事をとりにいくのは大変ですよね。だから、“もらった話は必ず引き受けなさい”と先代は言ったんです。無我夢中でお客様のご要望に応えた結果、技術が花開いたという事例は多いですね」
こう草間誠一郎氏は言うのだ。
顧客の依頼を断らず、むしろ困りごとを引き受け、解決することに活路を求めた。その結果、三ツ矢の技術力は自ずと磨かれていった。実際、電子部品をはじめ、めっきのニーズが多用化するなかで、プラスチックやステンレスなど、従来では考えられなかった素材でのめっきや、新たな機能の付与など、三ツ矢には次々と相談が持ち込まれた。
例えば、NASA(米航空宇宙局)のスペースシャトル「エンデバー号」に乗って、宇宙に飛んだ製品がある。話の発端は、宇宙空間でハロゲンランプの光を集光して1200度まで上昇させ、半導体材料を溶解する実証実験計画だ。集光するための金属反射鏡の反射効率をできるだけ高めるため「金めっきによって反射効率を高めることはできないか」と、三ツ矢に相談が持ち込まれたのだ。三ツ矢は試行錯誤のうえ、従来87%程度とされた集光反射率を99.8%以上にまで高めることに成功した。
「反射鏡にめっきを施すのは一発勝負で、傷つけたら一大事ですから美術品みたいな取り扱いになります。実に大変だったのを記憶しています」と草間氏は振り返る。
現在、「エンデバー号」に搭乗された実験装置は、搭乗した毛利衛氏の出身地、北海道余市町の「余市宇宙記念館」に実物が展示されている。
顧客の要望に応え続ける
三ツ矢の本社は東京・五反田で、工場が併設されている。このほか、同八王子市、山形県米沢市、山梨県甲府市に工場を構える。得意技術はボンディング用ニッケルめっきだ。
半導体のLSI(大規模集積回路)では、フレームにLSIを載せ、シリコンと金属の線を配線でつながなくてはならない。すなわち、ワイヤボンディングが必要だ。そのとき、配線に使用するワイヤは、接合強度が十分で大量生産が可能かつ低コストが条件になる。それらの条件を満たす「何かいいめっきはないか」と、三ツ矢に相談が持ち込まれた。トライ&エラーを重ねた末、たどりついたのが、得意のニッケルめっきだ。