「ニッケルめっき自体は古くからある技術です。しかし、装飾や防食を目的としたものであって、高度な技術ではなかったんですね」(草間氏)
三ツ矢が開発したボンディング用ニッケルめっきは、接合強度やコストが格段に優れていた。別の製品にも応用され、用途が拡大した。例えば、従来、エンジン用センサー部品向けのめっきについて、無電解ニッケルめっきをするのが一般的であったが、三ツ矢が新しく開発した特殊な電気ニッケルめっき製法がいまや主流となった。
「我が社が開発した特殊なニッケルめっきは、エンジン用センサー部品向けめっきの世界シェアの40%を占めています」(草間氏)
めっきの可能性は、いまや無限に広がっているが、草間氏は表情を引き締めるのだ。
「同じ表面処理技術にも、めっきのほかにコーティングなどの優れた技術が開発されています。さらに、印刷技術ですよね。金や銀の粒子を分散させ、インクのようにして印刷、過熱して配線をするなど、めっきに取って代わるまったく新しい技術が出てくる可能性があるんですね。同業者間の競争はもちろん、もっと広い範囲に目を配っておかなければ、めっき自体が、なくなってしまう可能性だってありますからね」
つまり、顧客の要望に応え続け、新たな技術を開発し続けることが、生き残るための条件になるというのだ。その一環として、三ツ矢は1990年代に社内に「技術センター」を設置した。もっとも、当時、技術センター専属の技術者は1人だった。
「私の代になってから、技術開発に注力し、現在、技術センター専属の社員は6人に増えています」(草間氏)
このほか、各工場で品質対応や環境対応業務を兼務する技術部員は、34人いると続ける。
「今後は、めっきの表面の結晶の形にまで及ぶ“ナノテク”の世界が、どんどん求められるようになっていくと思います」(草間氏)
業界を越えた厳しい競争を生き抜くために、技術センターが担う役割は大きいのである。
海外ビジネスへの展開
いま、三ツ矢が注力するのは、一度はあきらめた海外ビジネスへの展開である。三ツ矢は、一部の大手めっき事業者が海外拠点を構えるなかで、過去、いっさい海外展開をしてこなかった。というのは、三ツ矢が多く手掛けてきた電子部品は、ライフサイクルが短く、多品種少量生産の仕事が多いため、長期的な見通しを立てにくいからだ。