トヨタ「クラウン」、60年以上も高い人気を維持し続けている理由
「日本企業には優れた技術があるが、マーケティングのノウハウがないために海外企業に負けてしまう」という解説がよく聞かれ、書店にはマーケティングに関する書籍があふれている。マーケティングの基礎知識を紹介する本連載では前回、企業が成長を義務づけられる理由を解説したが、今回はその企業成長に欠かせないブランドマーケティングについて、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に聞いた。
ブランドを購買意思決定の指針としている顧客は70%以上
――マーケティングをブランドから考える視点はいつから生まれたのでしょうか。
有馬賢治氏(以下、有馬) 以前はブランドとは、自社製品と競合他社の製品を分けるための単なる識別手段だと捉えられていたのですが、現在ではブランドが競争を有利に運ぶための有力な武器にもなると考えられています。この認識は90年代から定着したとみられています。
――90年代とは、思ったよりも最近な印象です。
有馬 エルメスやルイ・ヴィトン、日本でいうならとらや(虎屋)の羊羹が昔からブランド的な価値があったように、ブランドによって消費者が購買選択をするという現象は今までもありましたが、概念として定着したのはアメリカの経営学者、デビッド・アーカーが1991年に出版したManaging Brand Equity(邦訳『ブランド・エクイティ戦略―競争優位をつくりだす名前、シンボル、スローガン』1994年)で“ブランド・エクイティ”という概念を解説したことが始まりです。“エクイティ”とは資産の意味で、この言葉が認知されることでブランドが価値を生み、それを管理することでマーケティングを構築できると学術的に考えられるようになりました。
――ブランド価値が高まることで、具体的にどのようなメリットがありますか?
有馬 消費者からすれば、ブランドは購買時に品質のシグナルとなるため、ブランドへの信頼感があれば、消費者に安心感を与えられます。さらに、ある調査結果では、ブランドを購買意思決定の指針としている顧客は70%以上、自身の選択ブランドには競合商品より20%多く支払ってもいいと考えている顧客は72%、さらに気に入ったブランドなら購入するのに価格を気にしないという顧客も25%いるといいます。