歯科医院は利便性の高い駅前に開業するのがトレンドになっており、それも競争激化を招く要因となっている。それでも患者が増えれば問題はないが、日本の人口は2017年10月時点で1億2670万人(前年比0.18%減)と徐々にではあるが着実に減っている。また、テナント代や設備投資に加え、詰め物金属などの歯材や人件費などのコスト上昇も経営を圧迫する要因だ。
「詰め物金属を使った治療は保険診療なので、患者ひとり当たりの利益は決まっています。しかし、金属資材が高騰しているため、負担がじわじわと重くなっているのです」(同)
今回の調査期間外の18年4、5月にも3件の倒産が発生しており、今後も倒産件数は「小規模医院を中心に増加していく可能性が高い」(同)という。
増えすぎた歯科医院、今後も倒産が増加か
歯科医院の問題は、倒産だけでなく休廃業・解散も高止まりしている点だ。東京商工リサーチによると、歯科医院の休廃業・解散は15年の65件に対して、16年には168件(前年比158.4%増)、17年には144件(同14.2%減)となっている。
「1999年から2009年までは、毎年10件以下でした。それが10年から急激に増え、ここ2年は100件を超えているのです」(同)
休廃業・解散は、歯科医の高齢化や後継者不足によって発生するケースが多い。世代交代が進んでいる半面、新規の歯科医院の経営も厳しい状況に置かれている。倒産の具体例について、平岩氏はこう説明する。
「人件費などのコスト上昇に加え、来院者の減少などの複合的な要因による倒産が多いです。一方で、最近は集客を見込んで駅前などに新規開業が集中したため、少ないパイの奪い合いで倒産に至っています。歯科衛生士などスタッフの確保も課題です。歯科医院はギリギリの人員で回しているケースが多く、代わりがいない状況になっています」(同)
東京商工リサーチの調査によると、「人手不足」倒産は「後継者難」型が中心だが、2017年度は「求人難」型が前年度から2割増となっている。人手不足によるコスト上昇に襲われるのは、「3K」といわれる業界だけではないのだ。
平岩氏は「人件費なども含めたトータルコストをいかにコントロールするかが歯科医院の課題」と指摘する一方で、地域医療の大切さも説く。
「今は首都圏の駅周辺に歯科医院が乱立していますが、当然ながら地方でも歯科医院は必要ですし、地域医療の充実は大切な課題です」(同)
さらなる高齢化に向けて、「今後は歯科医も地域と連携し、訪問医療が増えていくでしょう」と平岩氏は予測する。その訪問医療でいかに患者を獲得するかが、歯科医院の生存戦略といえるのかもしれない。
歯科医院業界の見通しについて、平岩氏は「プレーヤーが多いため、競争は依然として激しい。休廃業・解散や倒産も含めて、市場から退場する歯科医院は増加する」とみる。
増えすぎた歯科医院の淘汰は、まさに待ったなしの状況のようだ。
(文=長井雄一朗/ライター)