歯にワイヤーを装着して歯並びを変える歯列矯正に副作用があることは、まだよく知られていません。
筆者は、1998年に拙著『いい歯医者、悪い歯医者 - 噛み合わせが狂えば、命も危ない -』(クレスト社)の中で、歯列矯正による副作用の実例を報告しました。その後、読売新聞などで記事に取り上げられたこともあり、筆者の医院には歯列矯正の治療途中、治療後を問わず、さまざまな症状に苦しむ患者さんが訪れています。そのような方々が開業以来20年以上途切れたことはありません。
歯列矯正の副作用は、歯や顎の痛み、歯が噛み合わない、口が開かない、どこで噛んでいいかわからないといった口の不具合にとどまらず、頭痛、首や肩のこり、強い倦怠感、吐き気、不眠など多岐にわたり、不登校、仕事を辞めざるを得ないという深刻な状態に陥る場合も少なくありません。
残念ながら、こうした歯列矯正の負の側面があることはなかなか広まりません。
そもそも、歯科における歯列矯正とは、「咬合(噛み合わせ)を整えるための治療法である」と成書には記載されているのですが、いつの間にか見た目をキレイに揃える歯並び矯正になってしまっています。歯列矯正専門医は歯の移動には長けていますが、噛み合わせについて正しい知識を持っている者はほとんどいないのが実情で、歯列矯正の副作用で苦しむ患者を生み出す大きな要因となっています。
歯科業界は、歯科医過剰で過当競争となっていますが、矯正専門医は過当競争に加えて少子化の影響で子供の矯正患者が減っていることから、「いくつになっても歯並びを変えることは可能です」といった宣伝文句で成人にもターゲットを広げています。30歳を過ぎた男性お笑いタレントが、ワイヤーを装着している姿も見られるようになりました。そんなご時世とあって、成人の歯列矯正は増えています。そしてその分、副作用で苦しむ人も確実に増えることが予想され、筆者は暗澹たる思いです。
歯並びと噛み合わせは別物
一般的に、歯並びを整えると噛み合わせも良くなると思われがちですが、決してそんなことはありません。歯並びの形態に関係なく、各人固有の噛み合わせは20歳頃に完成します。つまり、20年の長い年月をかけて骨格や筋肉系、神経系など全身のシステムと連携しながら共に完成するのです。たとえ見た目の歯並びが乱れていたとしても、その歯並びに調和した顎の動きで咀嚼する複雑なシステムが出来上がっているのです。そのため、噛み合わせが急変すれば、影響は全身に波及します。