人工知能やビッグデータなどの技術革新によって、今後の私たちのビジネスが大きく変わっていくことは想像に難くない。
では、そうした時代を迎えるにあたり、成長する組織と没落する組織の違いはどこに生まれるのだろうか。その答えを探るには、違いの輪郭がはっきりと見えつつあるアメリカの事例がおおいに参考になる。
アメリカでもっとも高い評価を受ける技術・経営コンサルティングのひとつであるブーズ・アレン・ハミルトンのジョシュ・サリヴァン氏とアンジェラ・ズタヴァーン氏による『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』(集英社/ジョシュ・サリヴァン、アンジェラ・ズタヴァーン著、尼丁千津子訳)では、企業が飛躍的な成長を遂げるためのリーダーの条件がつづられている。
この連載では、本書を手がかりに人工知能時代のリーダーの条件を伝えていく。第4回のテーマは、「リーダーが持つべき倫理について」である。
データ活用とプライバシー
これからの時代は、データをいかに活用するかがビジネスの成否にかかわってくる。しかし、ここに大きな落とし穴がある。それは「プライバシー」の問題である。
しかし、それが「人々がプライバシーを大切にしていない」ということにはならない。これまで無自覚、あるいは自覚的に企業に個人情報を差し出してきたが、すでに気づき始めている人もいる。「本当に、自分の個人情報を提供するほうがためになるのか?」と。
本書の著者たちは、「マセマティカル・コーポレーション」(未来で成功する組織モデルの構築に必要な要素を持つ企業)のリーダーとして成功するには、「プライバシーという問題に対して、正しい答えは何かということを、今後ますます思考に取り入れなければならない」と指摘する。
過去の制約を打ち破ることは大事だ。しかし、それが、倫理上越えてはならない一線を越える許可を得たということにはならない。それは別の問題である。
たとえば、小売りチェーンの「ターゲット」は、消費者のプライバシーという倫理的にグレーな領域に踏み込み、苦しい思いをした企業のひとつだ。
同社はマシンインテリジェンスを利用し、購買データから妊娠中だと推測される女性に育児用品のクーポン券を郵送した。ところが、そのなかのひとりが10代の少女で、父親は娘の妊娠をターゲットの顧客別クーポンによって知ることになったのである。
倫理上、慎重に扱わないといけないデータとは、いったいなんだろうか。収集、分析、取り扱いの際に倫理的選択が必要なのは、どんなデータなのだろうか。倫理的にグレーな領域は大きいし、その種類もさまざまだ。推論だけで浮かび上がったデータを扱うケースもある。
『人工知能時代に生き残る会社は、ここが違う!』 技術が飛躍的に進歩して、膨大なデータを解析して新たな事実を発見したり、埋もれていた細かい事例をすくいあげることが可能になった。しかし、その技術をどう生かすかは、人間の発想次第だ。常識や制約にとらわれないアイデアを生み出し実現させているリーダーたちのひらめきは、どこからくるのだろうか。