負担軽減額自体は次回の消費増税負担額を上回る
一方、今回の菅官房長官の発言内容については、19年10月の消費増税を前に家計の負担を減らすことができる分野としてモバイル料金がターゲットになったと指摘する向きもある。
そこで、次回の消費増税の負担額を試算すると、前回の4分の1程度になると試算される。参考のために1997年度と2014年度、それから次回19年10月に2%引き上げた場合のそれぞれについてマクロの負担額を見ると、1997年度は消費税率の引上げ幅自体は2%で、負担増は5兆円程度と限定的であった。しかし、特別減税の廃止や年金医療保険改革等の負担が重なり、結果的には8兆円以上の大きな負担となった。さらに、景気対策がないなかで同年6月にアジア通貨危機が起こり、同年11月に金融システム不安が生じたため、景気は腰折れをしてしまった。
確かに、97年度は消費増税以外の負担増もあったため、消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない。しかし、前回の消費税率3%引き上げは、それだけで8兆円以上の負担増になり、家計にも相当大きな負担がのしかかった。
次回の消費増税の負担額は、日銀の試算によれば、2019 年10月から軽減税率を導入せずに消費税率が10%に引き上げられると、最終的に税収が5.6 兆円増えることになる。これは、一方で酒類・外食を除く食料を軽減税率の対象品目とした場合の必要な財源が1兆円、教育無償化に伴う必要な財源が1.4兆円となることなどから、家計全体では2.2兆円程度の負担にとどまることを示唆している。つまり、単純に携帯電話の料金が4割下がれば、次回の消費税率引き上げの負担を相殺して余りある負担軽減と試算される。
年代別に異なる恩恵
また、17年の総務省家計調査を用いて、具体的に次回消費税率引き上げが平均的家計に及ぼす負担額を試算すれば、年間約4.4万円の負担増となる。
そこで、世帯主の年齢階層別の消費税率負担増と携帯4割値下げの軽減額を比較すると、世帯主の年齢が20~50代の2人以上世帯では携帯料金の負担軽減が消費税率負担増額を上回るも、世帯主が60 代以上の2人以上世帯になると、消費税率の負担額が携帯の負担軽減額を上回る。
同様に、世帯の年収階層別では、年収が350万円未満と1250 万円以上の2人以上世帯では消費増税負担額が携帯4割負担軽減額を上回るも、年収350万円以上1250万円未満の2人以上世帯ではその携帯4割の負担軽減額が消費増税負担額を上回ることになる。
しかし、一律的な値下げとなると、家計部門への直接的な恩恵はあるが、通信会社の売り上げは値下げ分減少することが想定されるので、その分の悪影響も考慮しなければならない。
携帯料金引き下げ策は、家計支援策として議論を進めるというよりも、移動通信事業者の競争環境の整備を通じて、いかに料金引き下げを図るかという観点で議論を進めるべきものと考えられる。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)