訴状は、「信託契約の有効性を確認すべき必然性」を、次のように指摘している。
<不正行為を指摘されている訴外和生が、上場企業であるユニバーサル社の代表に返り咲くようなことが万一あれば、ユニバーサル社の企業価値は著しく毀損され、その結果、ユニバーサル社株式を資産の大部分とするOHL(オカダHD)の企業価値も大きく毀損されてしまう>
裕実氏を説得したのとまったく同じ理屈。不正を働いた岡田前会長がUEに復帰してはならないというのである。
UE、岡田前会長の逮捕を適時開示
その文脈のなかで、8月6日、UEは岡田前会長の逮捕を適時開示した。香港の警察組織とは別の捜査機関であるICACが、「複数の賄賂に関する容疑・罪状で、岡田和生氏を逮捕した」という。香港の捜査事情に詳しい人物が解説する。
「複数の賄賂に関する容疑ではなく、UEが特別調査委員会で問題視した子会社による20億円の貸付問題です。また、ICACは日本のように刑事訴訟法に基づく逮捕を行ったのではなく、自ら出頭した岡田氏に事情聴取しただけ。だから岡田氏も身柄を拘束されることなく、退出を認められている。今は、日本と香港を行き来しています。背景には、UE経営陣と岡田氏との徹底した争いがあります」
20億円の貸付問題とは、オカダHDが元東証上場企業代表者20億円を貸付、その回収のためにUE子会社を経由して同人に20億円を貸付、そこからオカダHDの貸金を回収したという疑惑である。
岡田前会長は「不正な貸付」という疑惑を否定、「現経営陣も承知し、認めた貸付だった」として争う姿勢を見せている。実際、富士本社長がフィリピン金融機関の求めに応じて当時のUE取締役管理本部長を代理人として公証人役場で署名認証を受けた上記貸付に対する追認書類も存在する。
「日本のカジノ王」は、「あと3つはカジノ建設にかかわりたい」といい、「カジノ法案が通過した日本でも」と、意欲を見せているという。そのためには、まず復帰。それが叶うか否かは、兄と妹が結んだ信託契約の有効性にかかっている。
裁判所はどんな判断を下すのか――。
(文=伊藤博敏/ジャーナリスト)