説明を受けたのは、2017年3月2日、ホテルの一室で約20分。以降、電話などでの追加説明はあったものの、あとは同年5月23日、公証人役場でサインして押印するまで、知裕氏からも彼の弁護士からも詳細な説明はなく、裕実氏には書類の原本も控えも渡されることはなかった。それでは、契約の意味するところを知らなかったとしても無理はない。
最も重要な「株式管理処分信託契約書」は、<第1章総則の第1条 委託者兼受益者(裕実氏)及び受託者(知裕氏)は、本会社の価値の毀損を防止し、本会社の利益の最大化を図ることを目的として、本信託契約を締結する>から始まる。本会社とは、オカダHDのこと。裕実氏は、知裕氏を信頼、サインすることがUEの窮地を救うことだと信じた。続く、第7章第24条まで、A4版で5枚に及ぶ文書を咀嚼して理解してはいない。それが普通の社会人の法知識だろう。
1時間に及ぶ被告、原告双方の質問に、「父を追い出すつもりはなかった」「兄を信頼していたからサインしたが、(信託期間)30年もの長い間、兄に一方的に有利な契約になっているとは思わなかった。知っていたらサインしなかった」と証言して終えた。
続いて証言台に立ったのは知裕氏である。「私と違って社交的で友達が多い」と裕実氏が語った知裕氏は、縦横に大きな体を証言席の椅子に沈め、快活に答えていく。裕実氏は自分を裏切ったわけだが「それは想定内だった」といい、「だから信託契約を結んだ」という。
「ワンマンの父は、UEの社内で独断専行がひどくなり、公私混同も目立つようになりました。私は、内部に知り合いもおり、情報が入ってくる状態でした。だから、父を経営から排除するしかないと思った。妹もわかってはくれましたが、父親の顔色をうかがって育ったので、父は取締役復帰を狙って妹を取り込むだろうと思いました。妹に負担をかけないためにも、信託契約を結んだのです」
そのため、裕実氏に対し、批判がましい発言は一切しなかった。ただ、「説明がなかった」という点については反論した。
「3月2日は、(事前に作成していた)メモをもとに、20分かけて丁寧に説明しました。信託期間が30年であることも、父を解任して戻れないようにすることが目的であることも、裕実は理解していました。(態度を変えたのは)父が裕実の家に行き、長時間居座ったうえで、『信託契約を結んだら、お前は譲渡税で自己破産する』とか『体調が良くなく、先は長くない』などと、あることないことを言って説得したからです」