マツダ、欧州ディーゼル車から撤退すべきだ…ロータリー・エンジン過信で経営危機の二の舞
しかしマツダのこの自信は、転換点を迎えてしまっているヨーロッパ市場でこれから通じるのだろうか。
ヨーロッパでマツダがどれだけのビジネス・プレゼンスがあるのか見てみる。
マツダはヨーロッパで合計26万9000台を販売した(17年3月期、同社発表数値)。このうち約3割がディーゼル車だというから(同社広報)、8万台強がそれに当たる。ちなみに日本国内でのディーゼル販売比率は約4割だそうだ。
前述したように、18年上半期のEC+EFTA30カ国でのディーゼル車の販売数は349万台であり、年換算すれば約700万台となる。つまりヨーロッパにおけるマツダのディーゼル車のシェアは約1.2%程度という勘定になる。
ここで、商品がプロダクト・ライフ・サイクル(PLC)のある特定の局面ではどのように利益を上げる可能性があるかを考えてみよう。PLCセオリーでは、特定の商品や商品カテゴリーは4つのライフ・サイクルをたどると説明されている。「導入期」「成長期」「成熟期」、そして「衰退期」だ。
「成熟期」は言ってみれば高位安定期、つまりビジネス・ボリュームのプラトー(高原)状態を指すが、ヨーロッパのディーゼル車セグメントは全体としてそれを過ぎて「衰退期」に入ったことは間違いない。1年間に4%強も落ちている売上カーブを見れば、それは明らかだ。
「衰退期」に入っている商品カテゴリーで利益を上げる戦略は「残存者戦略」となる。衰退していくマーケットから次々と競合他社が撤退していくと、「残り福」となったプレイヤーは残存者利益を享受できるというものだ。商品や技術の開発サイクルから考えても、大きな開発投資などが必要なのは「導入期」か「成長期」にあるとされる。ましてや「SKYACTIV-D」は技術的・コスト的競争優位を達成したとマツダは誇っている。もう「濡れ手に粟」のような状態さえ考えているのではないか。だが、それは間違っている。
ロータリー・エンジンの二の舞になる前に
PLCで衰退期に入ったそのカテゴリー領域で残存者利益を享受できるには、一定のプレゼンスがあるプレイヤーとなる必要がある。簡単にいえば、マーケット・シェアの高い商品が、露出が高いので選ばれるのだ。具体的には、フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラーというドイツの三大企業がディーゼル車の環境対応に力を入れている。つまり、安易に撤退はしない、という意思を見せているのだ。
アメリカの自動車メーカーはもともとディーゼル車を選好していない。商品としてのディーゼル車モデルそのものが少ない。日本の自動車メーカーは、マツダを除いてこの市場から撤退を決めている。ヨーロッパのディーゼル市場で残って勝負しようとしているのは、ドイツの三大メーカーと日本からはマツダだけとなる。そして、そのマツダのシェアは1%強しかない。
PLCセオリーで、ごく小さいマーケット・シェアのプレイヤーに希望があるのは、「成長期」である。マーケット全体が急速に成長すれば、「フォロワー」としての弱小シェア商品もつられて伸びていくことは多い。しかし、繰り返すがこのマーケットは急激に「衰退期」に突入しているのだ。
PLCセオリーと連動してプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)セオリーを援用すると、マツダの戦略的劣勢はさらに明らかになる。PPMの4象限の中で、「ヨーロッパにおけるマツダのディーゼル展開」を当てはめてみると、「マーケット・シェア」の軸で極低、「マーケットの成長」軸では高低どころかマイナスということになる。この2軸での組み合わせはPPMセオリーでは「Dog(負け犬)」と呼ばれる。そしてこの象限に入った商品や技術に与えられる戦略は「撤退」なのだ。
マツダのディーゼル・エンジンの技術「SKYACTIV-D」は競争優位を持っているという。そして次世代のディーゼルでも優位性を持てそうだともいわれている。マツダのディーゼル技術は、製造の上では確かにコスト優位を実現しているかもしれないが、シェア1%の商品が「衰退期」フェーズでそのシェアを伸ばしていくには、巨額の市場開発費がかかる。マツダがそのコストに挑戦しきれるとは思えない。
つまり単一商品の技術力より、大きなマーケット構造のほうがビジネスの勝敗を帰結させるものなのだ。
私は若いときにマツダのロータリー・エンジン車に乗っていたことがある。当時としてはすばらしいエンジン性能に惚れ惚れしたものだ。マツダの当時の経営陣も陶酔していたのだろう。
ロータリー車はしかし燃費の悪さでマスとしてのユーザーを持続させることはかなわず、やがてこのエンジンの開発と製造を続けているのは世界でマツダ1社となってしまった。そして、マツダはとんでもない経営危機に陥ってしまったのである。
あまり昔の話なので、今のマツダの経営陣や技術陣はその記憶が薄れてしまっているのかもしれない。しかし、おもしろいことに強い共同体験は企業組織にも取り込まれて残るものだ。ここでは、「技術信奉によって大きなビジネス戦略選択上の失敗を犯す」というDNAがそれだろう。
マツダは早くヨーロッパのディーゼルから撤退したほうがいい。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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