第3次AIブームの終焉
AI(人工知能)がすべての産業を再定義する、という孫氏の構想は画期的な革新とも聞こえるが。
「第3次AIブームはもう終わっています。画像解析や音声解析以外のことは、今のところ、たいしたことはできないんです。AIは、大量のデータがないことには何も分析できないですから。そんな大量のデータがある部分など、現実の世界でほとんどないんですね。よく『AIで仕事がなくなる』といわれますけど、仕事はなくなりません。AIだけでは仕事は完結しませんから。大変な仕事はAIにやらせて、隙間仕事みたいなマネージメントの仕事を人間がやるようになるでしょう。
リクルートワークス研究所の海老原嗣生さんがわかりやすい例を挙げていますが、今の回転寿司は、一番大変な板前の仕事とか寿司を運ぶ行程も全部機械化されています。だけど肝心の接客は、人間がやるしかない。そういうふうになるでしょう。大事な仕事がAIに取って代わられるので、日本には仕事が生きがいだというマゾヒスティックな人も多いので、そういう人たちにとっては労働の価値が下がってディストピアだと感じられるかもしれません。
だけど、接客のような、人間にしかできないホスピタリティが必要とされる仕事が重視されるでしょう。実際に今、人手不足でパート代が上がっています。そういう意味では、ユートピアかもしれません。デフレの20年間とは逆のことが起こって、ユートピアなのかディストピアなのか、わからない世界が来るのではないでしょうか」
10月4日に、ソフトバンクはトヨタ自動車とモビリティ事業での協業を発表し、注目を集めた。
「話題を呼んでいますが、将来の中核事業に発展するかどうかは不透明です。大手企業の場合、社内の意志決定の段階で10個のうち9つがボツになると言われてます。新しいビジネスはスタートアップ企業がやったほうが発展すると思います。
1989年にソニーがコロンビア映画を買収しましたけど、下手にソフトを持ってしまったものだから、技術的には可能だったのに、iPodとかiPadみたいなものをつくれなかった。トヨタとソフトバンクが並べば、メディアは取材に行くしかありません。要するに、株価対策じゃないですか。トヨタにしても、業績がいい割には株価は高くないですからね」