運転と場所に関するデータを集めることは、古野電気の技術転用が期待できる分野だ。昨年、同社はスマートGPSを開発した。この機器は、タクシーなど業務用に使われるタブレット端末に接続することで、カーナビと同水準の位置測位を行うことができる。12月に古野電気が発売を予定している多言語対応型のETCユニットなどと併用することで、外国人のレンタカー利用客に関するデータを収集することができるだろう。
その上で、ETCシステムに用いられているセンサーとレンタカーに搭載されている位置測位システムなどを連動させることで、事故多発区間に近づいたことなどをドライバーに通知することができるだろう。その技術の実用化は、未然に事故を防ぐことにつながる。
高まる位置測位への需要
その意味で、外国人観光客によるレンタカー利用の増加は、高精度の位置測位テクノロジー開発とその実用化を進めるチャンスといえる。それだけでなく、高齢者による高速道路の逆走による事故を防ぐなど、同社のテクノロジーが応用できる分野は広いと考えられる。
はっきりといえることは、より高精度の位置測位への需要は高まるということだ。この変化は、古野電気にとってチャンスだ。現状、同社の経営陣もその認識を持ち経営戦略を執行していると評価できる。
それを示すひとつの取り組みがある。昨年11月、古野電気は日立造船やデンソーが共同出資して設立したグローバル測位サービス株式会社(GPAS)に出資した。GPASは準天頂衛星である“みちびき”を用いた位置情報サービスの提供を目指している。日本版GPSと呼ばれるこの位置情報システムは、米国の運営するGPSとの併用によって、より高い精度での位置測位を可能にすると期待されている。
また、船舶分野でも自動運転技術の導入が目指されている。22年度にも船員による直接の操作がなくとも船舶を運航させることができるよう、政府は関連法案の改正を目指している。その背景には、海難事故の8割が、人為的な要因によって発生していることがある。当該分野でも、古野電気は従来の経験や技術を応用できるだろう。その他、外国人観光客の足として注目されているライドシェアの運行と管理に関する分野でも、同社のテクノロジーは重要な役割を担うはずだ。特に、犯罪抑止の観点から、正確に車の位置を把握することは欠かせない。
古野電気は、魚群探知機の世界的な老舗として世界の船舶向け電子機器市場で存在感を示してきた。今後同社に必要なことは、既存のテクノロジーと新しい要素(発想、技術など)を結合し、高精度の位置測位への需要を取り込んでいくことだ。産業用事業を中心に、同社がどのようにして新しい取り組みを進め、新商品を開発するか興味深い。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)