東京証券取引所は11月12日、ソフトバンクグループ(SBG)の通信子会社、ソフトバンクの上場を承認した。12月10日に価格を正式に決め、19日に東証1部に上場する。
想定売り出し価格は1株1500円で、時価総額は7兆1800億円を見込む。全額出資しているSBGは最大36.8%を市場で売り出す。SBGの調達額は1980年代後半にIPO(新規上場)したNTT(約2兆3000億円)を上回り、過去最大となる。世界規模でも2014年にNY株式市場に上場した中国・アリババ集団(約2兆7000億円、当時の為替レート)に匹敵するものになりそうだ。
SBGは手にすることになる2兆6000億円のキャッシュを人工知能(AI)関連の優れた技術を持つ企業に投資する。その大半はソフトバンク・ビジョン・ファンドに充当される見通しだ。
上場審査にあたって、申請から承認まで通常は3カ月程度とされるが、ソフトバンクのケースでは4カ月かかった。SBGが、上場会社になるソフトバンクの経営の独立性を確保することができるのかが焦点となった。東証は、SBGの孫正義会長兼社長がソフトバンクの代表権を返上したことを理由に、ソフトバンクの経営の独立性が高まったと判断したようだが、甘すぎると批判する声もある。
親会社と子会社が同時に上場する「親子上場」は、日本の株式市場の後進性を示すものだ。親子上場のメリットは、子会社側から見ると親会社の傘下に居続けることで経営の安定性を確保できる。一方、親会社は子会社株式を市場で売却して現金を得られる。
だが、ソフトバンクの事業の先行きには懸念材料が多い。孫氏は11月のSBGの決算会見で、政府からの携帯電話料金の値下げ圧力について「値下げしても増益を確保できるようにする」と強調した。第5世代(5G)移動通信方式への設備投資は巨額になるうえ、楽天の参入による競争激化は待ったなしだ。SBGの有利子負債を削減する手段としてソフトバンクのIPOがなされたとするなら、親会社以外の少数株主の利益はどうなるのだろうか。
親会社の意向が優先され、子会社の少数株主が不利益を被る懸念は常につきまとう。親会社が上場しているにもかかわらず、子会社をIPOして、さらに資金を得ることに対して疑問の声もある。
SBGとソフトバンクの場合、孫氏の判断がソフトバンクの経営に影響を及ぼすことは間違いない。SBGはグローバル企業と評されるが、「基本的には孫氏の“個人商店”であることに変わりはない」といった証券関係者の辛口の評価がある。
親子上場の例
野村資本市場研究所によると、親子上場は2006年度末の417社をピークに減少が続き、18年3月末には263社に減った。
10月中に東武ストア(東武鉄道系)、三井ホーム(三井不動産が56.2%出資。親子上場の典型)がTOB(株式公開買い付け)によって上場廃止になった。
NTT都市開発(NTTが67.2%出資。典型的な親子上場)や大京(オリックスが63.7%出資。経営危機に陥り、オリックスが支援して筆頭株主になったケース)は、現在もTOBが進行中だ。NTT都市開発のTOB期間は11月27日まで、大京は12月10日までとなっている。
親会社、アルプス電気との経営統合をめぐり、有力ヘッジファンド2社の介入を招いたアルパインの臨時株主総会は12月5日に行われる。議決権行使助言大手の米ISSが先に発表した助言方針にも「親会社や支配株主を持つ会社への監視を強める」項目が盛り込まれている。
住友化学系の大日本住友製薬、三菱ケミカル系の田辺三菱製薬も、“完全子会社予備軍”といえる。
(文=編集部)