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ショーボンド、無敵の経営…日本のインフラ補修に「なくてはならない企業」

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授

 足許、ショーボンドホールディングス株式会社(以下、ショーボンド)の株価が底堅く推移している。10月以降、国内の株価は全体的に下落した。その結果、年初から11月中旬までのTOPIX(東証株価指数)の騰落率は約10%に達した。

 一方、年初来でショーボンドの株価は3%程度上昇している。その背景には、補正予算などを通してわが国におけるインフラ補修・修繕が増えるとの見方がある。特に、高速道路の修繕に関して、同社のシェアは高い。

 これまでの業績を見ると、同社は官公庁や高速道路会社と良好な関係を維持してきたと評価できる。短期間で、ショーボンドへの受注が大きく減る展開は想定しづらい。そのため、今後も同社はわが国におけるインフラ補修などの需要を取り込んで、安定的に業績を伸ばしていくと期待する市場参加者は多いようだ。

 足許の市場環境のなかで、安定した業績が見込める銘柄は重要だ。なぜなら、中国経済の減速懸念から産業用機械などを手掛ける企業の業績予想が下方修正されているからだ。中国関連をはじめとする外需関連銘柄を売りつつ、内需関連銘柄を物色する投資家は増えているだろう。こうしたマネー・フロー(投資資金の流れ)の変化も、ショーボンド株の底堅さを支える要因と考えられる。

インフラ需要とショーボンド

 
 ショーボンドは、橋梁や高速道路などのコンクリート構造物(社会インフラ)や建物の補修や補強工事を手掛ける国内最大手企業だ。同社は、コンクリート構造物の建設や補修に必要な接着剤や装置などを開発し、インフラ整備関連の需要を取り込んで成長してきた。

 1958年、同社の前身である昭和工業株式会社が設立された。1959年に同社は建築用の接着剤である「ショーボンド」を開発した。1963年には社名が株式会社ショーボンドに変更された。このボンドを使うことによって、すでにあるコンクリート構造物に新しい躯体を接着することができる。特に、1964年に発生した新潟地震の際、ショーボンドは昭和大橋の復旧に用いられ、短期間で工事は終了した。これは、インフラの補修や補強で収益を獲得するという、ショーボンドのビジネスモデルの確立につながったと考えられる。

 ショーボンドが開発された時期は、わが国の高度経済成長の初期段階に当たる。同時期、わが国では軽工業から石油化学を中心とする重工業へのシフトが進んだ。石油などのエネルギー資源や工業製品の輸送などのために港湾や橋梁、道路などのインフラ整備が進むとともに、臨海工業地帯では石油化学関連のコンビナートが建設された。このなかで、ショーボンドは橋梁やダム、道路整備分野での需要を取り込んで業績を伸ばした。

 同社の事業内容を見ると、同社にとってのインフラ関連事業の重要性がよくわかるだろう。2019年6月期の第1四半期(2018年7~9月期)の決算にて、同社の工事売上高を発注者別に分けると、全体の48%が高速道路、国土交通省と地方自治体への売り上げがそれぞれ20%ずつとなっている。工事以外の事業も含めた売り上げ全体の96%が、国内の建設分野からもたらされている。

補正予算などを受けた株価上昇

 9月下旬にかけてショーボンドの株価は大きく上昇し、最高値を更新した。10月以降は、米国株の下落や、株価の値上がりを受けた利益確定の売り注文などに押されて同社の株価は下落した。ただ、株価の下落を受けて押し目買いが入り、年初よりも高い水準で株価は推移している。その背景には、安定した業績の推移が見込めるという市場参加者の見方がある。

 その一つの要因が、2018年度補正予算への期待だ。年初来、わが国は多くの自然災害に直面してきた。6月には大阪北部で強い地震が発生した。7月には九州、四国、中国、近畿、東海などの地域で観測史上最高となる降水量を記録し、各地に大きな被害が出た(平成30年7月豪雨)。9月には北海道で地震が発生した(北海道胆振東部地震)。そのための復旧費用を賄うための補正予算が組まれ、橋梁や道路などインフラの補修が増えるとの見方からショーボンドの業績期待が高まった。

 また、補正予算の効果が一巡した後も、ショーボンドの業績は緩やかな増加基調を維持できると考える市場参加者は多い。その要因が、高速道路の修繕だ。わが国の高速道路の総延長は約9,000キロに及ぶ。東・中・西日本高速道路株式会社(NEXCO3社)によると、そのうち4割程度が供用から30年を超え、修繕が必要な時期を迎えている。首都高速道路、阪神高速道路に関しても修繕は喫緊の課題だ。

 各社の更新計画を見ると、NEXCO3社で3兆円超、首都高速で6,000億円程度、阪神高速は3,000億円台後半の費用がかかるとしている。2020年の東京オリンピックに向けてのインフラ整備需要も、同社の業績の追い風になるとの見方がある。

 事業特性を見ると、ショーボンドは中国など海外で売り上げを拡大してきたわが国の企業よりも、業績の安定性が高いといえる。10月以降、世界的に株価が下落基調となるなか、当面のリスクを避けるために景気動向に敏感な銘柄よりも、中期的な業績期待が相対的に高い同社の保有を選好する市場参加者もいるようだ。

さらなる成長に必要な取り組み

 
 ショーボンドが発表した2019年6月期から2021年6月期までの中期経営計画をみると、同社は発注者別に見た工事売上高に関して、その40%を高速道路、30%を地方自治体、20%を国土交通省から得ることを目指している。今後、収益の構造が大きく変わることは想定されていない。売り上げ全体としては、670億円が目指されている。2018年6月期の売り上げ高は597億円だった。

 今後の経営に関して、同社には新しい取り組みを期待したい。同社がさらに持続性のある収益源を確保することができれば、成長への期待は一段と高まる可能性がある。そのために必要なことは、アジアを中心に新興国のインフラ関連需要を取り込むことだろう。

 わが国では少子化と高齢化、人口の減少が3点セットで進んでいる。そのなかで高度成長期のように国内の公共事業が増加し、建材や建設関連の企業業績が大きく拡大する展開は期待しづらい。国内で収益の大半を確保してきた同社にとって、収益源を分散する意義は高いといえる。

 そう考えると、同社は積極果敢に海外事業の育成に取り組んでもよいだろう。財務内容を見ても、同社の自己資本比率は80%を上回っており、リスクテイクの余力はあると評価できる。その強さを今後の成長に生かす発想があってもよいはずだ。

 すでに、アジア新興国でのインフラ需要をめぐる競争は激化している。足許では、中国が「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海洋シルクロードからなる広域経済圏構想)」を進め、各国のインフラ需要を取り込もうとしている。その動きに賛同する国も増えてきた。競争は激化してはいるものの、わが国のインフラを支えてきた同社が需要を獲得することは可能だろう。

 7月、ショーボンドはプロジェクト・チームを発足させ、米国やアジアでの市場調査に着手し始めた。まずは、需要の動向を確認しつつ、現地企業などのアライアンス(業務の提携)などを通して、自社製品の良さ、技術力の高さといった優位性をアピールしていけばよいだろう。国内での受注を増やしつつ、同社が海外で収益を確保し、さらなる成長を目指す展開を期待したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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