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本書では、「FOCUS」記事の企画を持ち込んだのが川勝で、まず最初に三浦半島のマリーナで写真が撮られ、その女が「銀座ホステスのヨウコ」であるという情報だけを頼りに、毎夜、銀座に立ち「ヨウコ」探しを続け、数百万円を費やし、2カ月後、ついに突き止めたという川勝の執念のエピソードが明かされている。
川又-塩路時代の日産に欠けていたのは、「企業はどうあるべきか」というガバナンスである。労使のなれ合いが塩路という怪物を生み、「組織防衛、組織操縦の天才」だった塩路に、人事権や管理権、場合によっては経営権まで委ね、塩路の増長がもたらす腐敗と歪みを、経営陣は見逃した。
それは今につながっている。塩路切りに立ち上がった石原は、「7人の侍」を有効に使い、労使関係を正常化させたが、後継の久米豊社長のもと改革は中断。辻義文、塙義一と続く社長のもとジリ貧が続き、99年、約2兆円の有利子負債を抱えて仏ルノーと資本提携、ゴーンに再建を託した。
リバイバルプランを成功に導いたゴーンは、18年もの長きにわたって日産を支配する間に腐敗して、経営を私物化した。「権力が腐敗する」のは、時代も民族も問わない。
そして今回、立ち上がったのは「ルノーへの身売りというゴーンの変節に怒った日産の一部経営幹部」であり、その怒りに同調したのは、検察との司法取引に応じた専務執行役と元秘書室長だった。
塩路とゴーン――。時代背景もよって立つものも違うが、長く権力を握るうちに会社を私物化していったのは同じで、経営幹部が彼らを恐れ、ガバナンス不全の会社にしてしまったのも同じ。前回は一課長の「たった1人の争い」が「蟻の一穴」となり、経営トップの決断もあって労組支配は崩壊したが、今回はどうか。ガバナンスを取り戻すのに司法権力を使うのは前代未聞だが、西川廣人社長は正面からの戦いは無理と判断して検察に駆け込んだ。
その判断の成否も含め、日産という会社と事件の背後にある事なかれ主義の底流を知るのに最適の本だろう。
(文=伊藤博敏/ジャーナリスト)
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