奇跡のサバ缶「金華さば」、日本中から注文殺到の秘密…売上が工場流失の震災前を大幅超え
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
2018年もカウントダウンを迎え、今年を振り返る言葉や商品が次々に発表された。よく知られているのは「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会が選定)で、18年は「災」が選ばれた。京都市の清水寺で森清範管主(住職)が揮毫する姿は、12月の風物詩でもある。
食文化では「今年の一皿」(ぐるなび総研が選定)に「鯖(さば)」が選ばれた。こちらは、その年の日本の世相をもっとも反映・象徴する料理という位置づけだ。サバにはDHA、EPA、カルシウムなどが豊富に含まれ、健康機能性も期待できる。18年に国内各地で相次いだ台風や大雨、地震などの災害による、防災意識の高まりでも、サバ缶が注目された。
このサバ缶を製造するメーカーのひとつに、宮城県石巻市に本社がある「木の屋石巻水産」(以下、木の屋)がある。石巻港に近い本社工場が、11年の東日本大震災後の大津波で流失した経験を持つ。震災の翌年から同社の取材を続ける筆者は、15年2月12日付本連載記事『「命の缶詰」工場、震災直撃から奇跡の復活…驚異の行動力と多角化、何千人の支援』で、その復活劇を紹介した。
あれから4年弱。木の屋の業績は好調で、震災前の年間売上高を超えた。その理由は何か。取り組みを紹介しつつ、同社の主力商品「魚缶・鯨缶」の消費者意識も考えてみたい。
被災後の商品が「命の缶詰」「希望の缶詰」に
まずは、木の屋がV字回復を成し遂げるまでの経緯を、簡単に紹介しよう。
(1) 東日本大震災後の津波で工場を流失
(2) 被災後の缶詰が「命の缶詰」や「希望の缶詰」として話題に
(3) 震災支援でできた「縁」を生かし、各方面にメディア露出
(4) 新たな商品開発や消費者訴求などに注力
(5) 「金華さば缶」などが人気となり、売り上げが拡大
(1)と(2)は前述の本連載記事で触れたが、11年3月11日の東日本大震災と、その後の大津波で、石巻港に近い本社工場が流失。流れてきた缶詰を食べて、当面の空腹をしのいだ被災者にとって「命の缶詰」となった。その後、取引先である東京・世田谷区経堂のイベント酒場「さばのゆ」の活動などで支援の輪が広がり、工場在庫として残った約22万缶(当時の記事では25万缶)の缶詰が、多くの人の協力や支援で完売した――という話だ。
なお「さばのゆ」を経営する須田泰成氏の本職は放送作家・脚本家だ。18年には一連の取り組みを紹介した『蘇るサバ缶』(廣済堂出版)という単行本も発売された。