「文化の流布」モデルからわかること
アクセルロッドが発表した「文化の流布」モデルは、前回紹介したシェリングの分居モデルと並んで、エージェントベース・モデルの古典と位置づけることができます。このモデルでは、エージェントたちは分居モデルのときと同様、格子状の世界に住んでいます。
分居モデルと違うのは、すべてのセルにエージェントがぎっしり埋めこまれていて、身動きが取れない(移動しようにもできない)ことです。各エージェントには上下左右に4人の隣人がおり、彼らとの間だけでコミュニケーションを行います。アクセルロッドがエージェントとして考えていたのは、分居モデルのように個人ではなく、国または地域になります(とはいえ、個人を対象にしたモデルにも転用できます)。
それぞれのエージェントは多次元の「文化」を持っています。国であれば、文化は言語、宗教、政治体制などから構成されます。消費者であれば、さまざまな次元での価値観やライフスタイル、あるいは各種ブランドへの選好を考えることができます。いずれの場合も、他のエージェントの影響で文化の構成要素は変化し得るとします。具体的にいうと、まず全エージェントから1人をランダムに選びます。彼または彼女は4人の隣人から、ランダムに1人選びます。次いで、その隣人の文化から、自分とは違う要素を1つ選んで自分に取り入れます(自分にすでにあった要素に上書きされます)。
こうしたプロセスの例を示したのが図1です。ここではエージェントの文化は5次元で、個々の要素の特徴は0~9の数値で表されています。2人のエージェントの文化は3つの次元で一致しているので、5分の3の確率で文化の「ある要素」が移転します。この図では3番目の要素が選ばれていますが、エージェント間で不一致のあった2番目の要素が移転していた可能性もあります(どちらにするかはランダムに決まります)。これが、この格子状の世界のあらゆる場所で逐次進行するわけです。そして、どのエージェントの隣りにも、自分と最低1つの要素で一致するエージェントがいなくなったとき、各自の文化はもう変化しなくなってシミュレーションは収束します。