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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

原子力発電、採算合わず“儲からないビジネス”に…欧米メーカーはすでに撤退、世界の潮流

文=加谷珪一/経済評論家
原子力発電、採算合わず“儲からないビジネス”に…欧米メーカーはすでに撤退、世界の潮流の画像1「Gettyimages」より

 アベノミクスの目玉政策の一つだった原発の輸出ビジネスが岐路に立たされている。三菱重工業がトルコの原発建設計画を断念する方針を固めたほか、日立製作所も英国で進めている原発プロジェクトの見直しを決定している。日本の高度な原発技術を世界に輸出するという一連のプロジェクトは、ほぼすべて頓挫するという状況になってきた。

トルコに対しては外交的にも特別扱い

 
 三菱重工は、政府と一体になって進めていたトルコの原子力発電所の建設計画を断念する方針を固めた。最大の理由は、コストが想定の2倍に膨れ上がり、採算が取れない可能性が高まってきたからである。

 トルコへの原発輸出は、安倍晋三首相とトルコのエルドアン首相(現大統領)が親しい関係にあることから浮上した国策プロジェクトである。三菱重工を中心とした企業連合が、黒海沿岸に原発4基(総出力約450万キロワット)を建設する計画が立案された。

 トルコに対しては外交的にも特別待遇が実施された。政府は2013年5月にトルコと原子力協定を結んだが、これはトルコに対して原子力発電所の関連資材や技術を輸出するためのものである。この交渉は原発の受注とセットで進められたが、締結された文書には、日本が書面で同意すれば、輸出した核物質について再処理できるという文言まで入っていた。日本が同意すればという条件付きではあるが、場合によっては核兵器への転用を可能にする内容だったことから、野党はもちろん与党内からも慎重な対応を求める意見が出たものの、成長戦略優先という雰囲気のなか、こうした声は顧みられなかった。

 最近では話題になることも減ったが、この協定は一昔前なら大問題となっていた可能性が高い。なぜなら使用済核燃料の再処理を認めるかどうかは、米国の核戦略とダイレクトに関係するテーマだからである。

 米国が中心となって策定した核不拡散条約は、米国、英国、ロシア、フランス、中国を核保有国として定義し、それ以外の国への核兵器の拡散を防止するという内容である。第2次世界大戦の戦勝国を中心とした一方的な条約ではあるが、これが戦後の国際秩序の根幹となってきたのは事実である。北朝鮮が各国から制裁を受けるのは、この枠組みに北朝鮮が反発していることが原因である。

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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