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「加谷珪一の知っとくエコノミー論」

原子力発電、採算合わず“儲からないビジネス”に…欧米メーカーはすでに撤退、世界の潮流

文=加谷珪一/経済評論家

 こうした環境の変化は、原発を発注する側にも顕著にあらわれている。

 かつて原発を建設する場合、基本的に電力会社が発注を行い、原発メーカーはそこに原子炉を納入するだけであった。製造するまでがメーカーの責任であり、その後の運用はあくまで発注者である電力会社がリスクを負う。

 しかしトルコや英国の案件は、原発メーカー(もしくはメーカーが関与した事業体)が発電所の建設だけでなく、その後の運用まで引き受けるという形式で、トルコや英国は、発電した電力を買い取ることで対価を支払う。つまり発注側であるトルコや英国は、電力に対して対価を支払うだけで、原発そのものが抱える各種のリスクを負わない仕組みとなっているのだ。

 このように発注側に圧倒的に有利なスキームが成立しているのは、原発が儲からないビジネスになったという現実を如実にあらわしている。さらに都合が悪いことに、こうした不利なスキームに対しても、戦略的な価格で応札する国が存在しており、日本はそうした国々と競争せざるを得なくなっている。不利な条件でも安値で応札する国というのは、具体的にいえばロシアと中国である。

日本は採算度外視のロシアや中国とのガチンコ勝負に

 
 先ほども説明したように、発電用の原子力開発と核兵器の開発を分けて考えることは、物理的、工学的にも、また政治的にも不可能である。軍用と民間用を意図的に完全分離し、再処理すら行わないという米国を除いては、何らかのかたちで核開発との関係性が生じてしまうというのが原子力産業の宿命である。

 ロシアや中国は、原子力産業が持つこうした特質をむしろ積極的に利用し、兵器開発とセットで原発の開発を進めてきた。特に中国の場合、各国に覇権を拡大したいとの野心があり、破格の値段で原子力発電のプロジェクトを請け負っている。

 ビジネスベースで原子力に取り組む先進国の企業はほとんど原発から撤退しており、日本メーカーだけが、こうした採算度外視の新興国メーカーと争う図式になっている。一般的に考えて、こうした市場環境において価格面で日本メーカーに勝ち目はない。トルコや英国は、中国やロシアが提示する価格をベースに買い取りを検討するので、日本側と2倍のズレが生じても不思議ではないだろう。

 原子力をとりまく環境が悪化していることは以前から何度も報道されていたし、誰よりも原発メーカー自身がよく理解していたはずだ。十分な検証をせずに「日本の技術を世界に」といった精神論で一連のプロジェクトを進めてしまったのだとすると、今回の結果は必然ということになるだろう。
(文=加谷珪一/経済評論家)

加谷珪一/経済評論家

加谷珪一/経済評論家

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『教養として身につけたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)、『中国経済の属国ニッポン、マスコミが言わない隣国の支配戦略』(幻冬舎新書)などがある。
加谷珪一公式サイト

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